<社説>日中関係の緊張 冷静な対話こそ必要だ

 日中関係が緊迫し始めた。台湾有事が集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」になり得るという高市早苗首相の発言がきっかけである。
 中国は、日本への渡航を当面控えるよう促す通知を出し、学生にも留学を慎重に検討するよう注意喚起した。
 互いに非難の応酬となり、事態をエスカレートさせれば両国の損失につながる。冷静な対話により、粘り強く緊張緩和の糸口を探る必要がある。
 首相と中国の習近平国家主席は先月末の首脳会談で、双方の共通利益を拡大する戦略的互恵関係を確認したばかりだ。
 首相は地域の緊張を高める自らの不用意な発言を速やかに撤回し、中国側も国民の反日感情をあおるような表現は慎むべきである。
 中国外務省は日本の金杉憲治駐中国大使を呼んで抗議し、首相の発言撤回を要求した。だが渡航や留学の自粛を求める理由として日本の治安が悪化し、中国人に対する犯罪が多発していると根拠を示さず主張しているのは明らかに度を越している。
 事実に基づかない批判は自国の信頼を失わせるだけだ。
 中国は過去にも中国漁船衝突事件後にレアアース(希土類)の対日輸出を停滞させ、福島第1原発処理水の海洋放出後に日本の水産物を禁輸した。
 意に沿わない相手を外交交渉とは別の手段で脅す「経済的威圧」は責任ある大国の振る舞いと言えない。また同じことを繰り返そうというのか。
 日本が忘れてはいけないのは問題の発端は首相の発言にあることだ。首相は、歴代首相が言及を避けてきた集団的自衛権行使の個別ケースという極めて微妙な問題に、国会の場で踏み込んだ。軽率と言うほかない。
 そもそも集団的自衛権行使の根拠となる安全保障関連法は違憲の疑いが濃い。首相は発言を撤回しない構えだが、支持基盤である保守層向けにあえて強気に出ているのであれば危うい。
 首相の発言を巡って中国の駐大阪総領事が「汚い首を斬ってやる」と投稿し、与野党からはペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)に指定すべきだとの声が上がっている。
 投稿内容は言語道断だが、そうした対抗策はかえって対立を激化させかねない。事態沈静化に向け、慎重な対応が必要だ。
 1972年の日中共同声明は、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力や武力による威嚇に訴えないことを確認した。両国はこの内容を顧みねばならない。
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