<江別 ハルユタカに魅せられ 麦の里の挑戦>上 試行錯誤、初冬まき実る

06/24 10:52 更新
青々としたハルユタカが風に揺れる江別市内の小麦畑
青々としたハルユタカが風に揺れる江別市内の小麦畑

 6月上旬。江別市内の小麦畑を風が吹き抜け、緑の穂が一斉に揺れた。昨年11月に種をまき越冬した「初冬まき」のハルユタカ。今年は春先に雨が少なく生育が懸念されたが、まっすぐに伸びた小麦が広がる光景に生産者はひとまず安堵(あんど)した。

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 「昔は江別らしい農産品をすぐには言えなかったけど、今はハルユタカがある」。20年以上生産を続ける農家の富永政博さん(64)は胸を張る。市内のハルユタカの作付面積は2020年度、530ヘクタールと道内の56%を占め全道一だ。

■全道平均の倍

 ハルユタカは1985年、春に種をまき夏に収穫する「春まき小麦」として道立北見農業試験場(現・道立総合研究機構北見農試)で誕生した。減反政策が本格化していた当時、生産者はコメの転作作物としてこの新たな小麦を歓迎した。

 一方、ハルユタカは収穫時期の雨で粒が成長せず穂が枯れる赤カビ病になりやすいなど、収量や品質が不安定な側面があった。道内各地で生産者が徐々に減少し、「幻の小麦」と言われる状況になる中で、江別の生産者は試行錯誤を続けた。

 92年7月、江別市農協畑作振興会の会長だった片岡弘正さん(故人)が、前年の収穫時にこぼれて畑に残されたハルユタカが越冬し大きく育っていることに気付く。疑問に思い石狩農業改良普及センター江別分室(当時)に問い合わせると、過去に深川市で降雪前に種をまく試験が行われていたことが分かった。

 「失敗しても春にまき直せばいい。試しに雪が降る前に種をまこう」。片岡さんが挑戦したところ、翌年の反収(10アール当たり収量)は当時の全道平均の2倍以上の643キロに上った。

■消費増目指す

 雪の下で発芽することで生育期間が長くなり、雨が多くなる前に収穫することから病気のリスクが低減できた。この「初冬まき」の技術が功を奏し、江別にハルユタカの生産が根付いていった。

 片岡さんの後を継いだ長男の貴弘さん(45)は「父の始めた小麦を評価してくれるお客さんの声に応えていきたい」と話す。一方、近年は「ゆめちから」など新品種が相次いで登場。農家の世代交代が進み取り組みへの温度差も見え始め、ハルユタカの作付面積は09年の627ヘクタールをピークに減少傾向にある。

 小麦生産者らでつくる「江別市小麦生産部」の徳永大輔部長(47)は「もう一度、産地としての意識を共有していかなければ」と危機感を募らせる。

 生産を維持するには、出口となる消費の拡充が欠かせない。「ハルユタカを絶やすわけにはいかない」。地元の企業が動きだした。(江別支局の土門寛治が担当し、3回連載します)

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