卓上四季

介護の危機

07/26 05:00

哲学者の岸見一郎さんは、認知症の父の介護を通して考えた。「親が過去を忘れるのは私的な世界へと待避するから。親を引き戻すのではなく、家族が親の世界へ入っていくしかない」と著書「老いた親を愛せますか?」に記した▼わが子を他人と思ったり、家にいるのに「帰る」と言ったり。別人のような親を介護する辛(つら)さは名状しがたい。じっと耐えている家族が全国にどれほどいることか。そこに、新型コロナの試練が加わった▼集団感染のリスクや人手不足から、やむなく利用を制限する通所施設が増えている。利用者は家にこもりがちになり、ストレスから認知症状が進む。厚生労働省は先月、施設を支援するためサービスの報酬を引き上げる特例を決めた▼ところが、この措置が混乱を招いている。追加分の報酬を利用料金に上乗せしていいことにしたためだ。「3時間しか利用していないのに、5時間分の利用料を払わされる」といった不満が噴出した▼同意しない利用者もいて公平性が保たれない。気がねして追加料を取らない施設もある。京都市に本部がある「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事は「20年前に介護保険制度ができて以来最大の危機」と訴える▼ここは国が財政出動すべきだ。10兆円の予備費だってある。休業した事業者には給付金が届くのに、介護家庭は置き去りなのか。そんなつぶやきが聞こえてくる。2020・7・26

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