暮らしと法律

<新型コロナ>② 感染者情報をネットに掲載したら? 感染が分かった後に飲食店に行ったら?

03/13 17:00

 新型コロナウイルスの感染拡大が日本社会を揺らしています。未知のウイルスに対し不安に思うことは誰でもありますが、中にはふだんでは考えられないような極端な行動をとってしまう人もいるようです。こうした行為は、民事、刑事の法律面からはどういう扱いになるのか。札幌弁護士会の大崎康二弁護士に聞きました。2回に分けてお伝えします。(聞き手 小林基秀)



マスクをして予防する女性(写真はイメージです)

■医師らの感染者情報の口外は厳罰に

――例えばスーパーの店員が新型コロナウイルス陽性になったとして、公的機関は陽性者の氏名などは公表しませんでしたが、検査をした病院の医療従事者が第三者にあのスーパーの店員だと口外したことで噂が広がり、スーパーの来店客が激減したとします。医療従事者が陽性者の氏名や勤務先などを口外したことがスーパーに対する営業妨害や、店員に対する名誉毀損などにあたるのでしょうか。

 医師や看護師等の医療従事者は守秘義務を負っており、業務上知りえた他人の秘密を洩らしたときには、医師は刑法134条1項により、看護師は保健師助産師看護師法42条の2、44条の3第1項により、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられます。医療従事者がこのような守秘義務に違反し、陽性患者の病状を公にした場合には、陽性患者に対し、慰謝料等の損害賠償義務を負います。勤務先のスーパーの売上減少等の損害については、陽性患者の勤務先のスーパーまで特定されることが想定できる場合には損害賠償義務を負います。

■他人によるネット掲載も名誉毀損、プライバシー侵害に

――公的機関が発表した陽性者の限定的な属性を手がかりに情報収集し、(赤の他人が)陽性者の氏名や勤務先などの属性をネットで公開したとします。これはどんな法律に抵触する可能性がありますか。

 名誉毀損、プライバシー侵害が問題となりうるかという問題です。陽性患者の社会的評価を低下させるため名誉毀損が成立しうると思いますが、真実性の抗弁(公共性、公益性、真実性があれば名誉毀損が免責される)が成立するかの問題です。公開した情報が真実であるとして、それを公開する行為に公益性、公共性があるのかが問題となります。公開した側は、感染拡大を防止するためという反論をするのかもしれませんが、濃厚接触者の調査等によって感染拡大防止に努めるのは行政の役割であり、その公開した人間が責任を負うべき問題ではないため、公益目的が認められ難いのではないでしょうか。名誉毀損は民事事件の損害賠償の問題としても、刑事事件の犯罪の成否としても問題となり、基本的には同じ枠組みで判断されます。また陽性患者が公開を欲しない私生活上の事実の公開になるため、プライバシー権の侵害も問題となります。プライバシー権侵害についても、正当な理由があるものであれば正当化される余地がありますが、新型コロナウイルスの感染状況というのは特にプライバシー性の高い情報であり、保護の要請が強い性質のものです。感染拡大防止に何らの責任を負わない部外者が勝手な判断で情報を開示すべき必要性があるとも考え難いことから、プライバシー侵害ありとして、慰謝料等の損害賠償義務を負うと考えられます。

■飲食店で食事の感染者に損害賠償を請求できるか

――新型コロナウイルス陽性を告げられ、入院する病院がきまるまで自宅待機を要請されていた人が、要請を聞かずに飲食店に行き、それが後で判明したことで、そのお店が一定期間休業に追い込まれたり、消毒のための費用がかかったりすると、お店側はその陽性者に損害賠償を求めることができるのでしょうか。

 新型コロナウイルスの陽性患者には保健所から自宅待機要請が出される場合、あくまで要請であって命令ではないので、外出自体が違法ということにはならないでしょう。しかし、自身が陽性患者であり、自宅待機要請まで出ているのであれば、一般的に考えて第三者に感染を広げないように不要不急の外出は控えるべきなので、不要不急の外出をしたことによって第三者に損害を与えた場合は、民法上の不法行為責任として損害賠償義務を負うと考えられます。

 この場合、どこまでの損害に責任を負うべきかという問題があり、法的には損害賠償の対象は、通常発生すると考えられる損害に限られます。飲食店として消毒は当然に必要となるものなので通常発生する損害に含まれますが、休業の要否は陽性患者の滞在時間や店での過ごし方にもよっても変わってくるところであり、ケースバイケースでしょう。例えば、1~2時間も滞在して飲食して会話もしていた場合と、ごくごく短時間の滞在で会話もなくマスクもしていた場合では、どこまで賠償責任を認めるかは変わってきます。

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大崎康二(おおさき・こうじ)弁護士>1976年、東京生まれ。慶応大法学部法律学科卒。2004年に弁護士登録。司法修習生時代を過ごした札幌で弁護士活動を続け、2008年に現在の「堀江・大崎・綱森法律事務所」を立ち上げた。趣味は「世界の遺跡めぐり」。02年に司法試験に合格後、バックパックでメキシコ、ベリーズ、グアテマラの遺跡を巡り「治安が悪くて強盗未遂に何度も遭った」が、その魅力に取り憑かれ、その後もヨルダン、レバノン、エジプト、イラン、トルコなど中東各国をはじめ、東南アジアなどの遺跡を訪ねている。ふだんの息抜きは道内の温泉めぐり。


<取材を終えて>


 鈴木直道北海道知事が道民に週末の外出自粛を初めて要請した日、私は仕事帰りにスーパーに立ち寄りました。買い物客の多くがトイレットペーパーやティッシュを手に持っていました。

 2018年の胆振東部地震の時も、同じ光景がありました。道内全域停電(ブラックアウト)により物流が滞ったので、自宅のストックが少ない市民が、いつ買えるか分からないと不安に思い、店に殺到したのでしょう。

 今回は物流は止まっていません。ただ、多くの人が買いだめに走れば、一時的に配送が追い付かなくなる。結果的に、買い置きを多くは持てない高齢者世帯など、本当に必要とする人にモノが届かなくなることが懸念されます。

 「足りないモノはコンビニに行けばいつでもそろう」生活は便利ですが、必要十分な備蓄をしておくことが、いざという時にパニックに陥らず、かつ、買い物弱者にモノを届ける意味でも大切であることを、改めて確認したと思います。(小林基秀)

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