文化・芸能

<書評>四隣人の食卓

01/05 05:00
<書評>四隣人の食卓

ク・ビョンモ著

お隣さん愛せず苦しむ4家族
評 キム・ミンジョン(翻訳家)

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 家族ってあったかい。でもほとんどの場合、分かち合えない。そして時々、ぞっとする。隣人って頼りになる。でもほとんどの場合、その助けはおせっかいの範囲を超えない。そして時々、重すぎる。

 本書の舞台は、少子化対策の切り札となる「夢未来実験共同住宅」。自然が豊かで家賃も安いが、入居10年以内に子どもを3人出産するという条件付き。4組の家族が入居し、裏庭に集う。専業主夫のチョンが好奇の目にさらされて気分を害するなど入居直後からギクシャクするが、誰もが口には出さず良好な関係を取り繕おうとする。

 近所に保育園がなく、共同育児を試みると関係性はさらに崩れていく。イラストレーターで母のチョは共同育児で絵を教えるようになり、仕事の時間が確保できず、心の余裕を無くしていく。そのチョに対し、リーダー的存在の完璧主婦ホンはイライラを募らせる。「母親というのは、たとえ自分に落ち度がなくても『申し訳ない』『ありがとう』を口癖に暮らさなければならない存在」だと考えるホンと、徹夜続きで「食べかすの散らばった場所でも眠ることができそう」なチョの接点は見つからない。立場の異なる4人の女性たちが日々、神経をすり減らしていく一方、夫たちは、傍観者の立場に甘えている。

 本書の題名は韓国語では「君の隣人」とも「4人の隣人」とも解釈できる。聖書でキリストは「隣人を愛せよ」と説く。他人を愛することに理由は必要ない。博愛の精神である。けれど、そこには愛せない理由が百はあり、4組の家族を苦しめる。

 昨年度、韓国の合計特殊出生率は0.98。政府は、出産奨励金や児童手当など対策を講じているが、成果が上がらない。この厳しい現実が小説の背景である。著者は2008年、ヤングアダルト向け「ウィザード・ベーカリー」でデビューした。SFで活躍してきた著者は会話を巧みに操り、女性たちの心の動きを繊細に描いていく。

 精神的なダメージを与える隣人たちの言葉に背筋が凍る一種のホラー小説である。(小山内園子訳/書肆侃侃房 1760円)

<略歴>
韓国の小説家。邦訳作品に「ハルピュイアと祭りの夜」

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