社説

参院選改憲勢力後退 暮らしの不安解消が第一

07/22 09:08 更新

 参院選は自民、公明の与党が改選過半数を得た。「政治の安定」を訴えた安倍晋三首相による1強の政権運営が続くことになる。

 肝心なのは長期政権の下で何を行うかだ。首相は選挙戦で宿願の憲法改定に関し9条に自衛隊を明記する自民党案に触れ、従来になく改憲を積極的に争点に据えた。

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 自民党は改憲発議への動きを加速させる可能性があろう。

 しかし、自公に日本維新の会などを加えた改憲勢力は、発議に必要な3分の2を割り込むことが確実になった。公明党は9条改定に慎重姿勢を崩さず、改憲への国民の関心も高くない。

 安倍政権での改憲を国民が信任したとは言えまい。何よりも、幅広い国民合意が必要な改憲を一方的に押し通してはならない。

 首相が取り組むべきは老後資金2千万円問題に象徴される国民の将来不安に正面から向き合うことであり、山積する外交の難題に解決の道筋を付けることだ。

■年金の将来像議論を

 首相は改憲について「議論する党を選ぶのか、一切議論しない、国会議員として責任を果たしていかない党を選ぶのか」と訴えた。

 きのうのテレビ出演では「しっかり議論していけという国民の声を頂いた。国会で議論が進んでいくことを期待したい」と述べた。

 しかし選挙戦中の共同通信社の世論調査では安倍政権下での改憲に反対51%、賛成34%で、結果は改憲勢力3分の2に達しない。

 首相は改憲への国民の慎重な考えの表れだと受け止めるべきだ。それでも「議論するのが責任」だと決めつけるのなら、改憲議論の押しつけにほかならない。

 国民の関心が集まったのは、年金など暮らしに関わる政策だ。

 首相は年金制度の持続可能性を強調した。だが、公的年金の財政見通しを5年に1度点検する政府の財政検証は選挙中に出なかった。裏付けは示されていない。

 一方で首相は「野党は不安をあおっている」と主張し、取り合わない。論戦は深まらなかった。

 国民の安心を確保する社会保障制度は不断の点検が求められる。

 通常国会で政府・与党は野党の予算委員会開催の要求を拒み、不都合な事実にふたをする国会軽視の姿勢が一層顕著になった。

 臨時国会では予算委を開き、年金の将来像を徹底議論すべきだ。

 議論がなく放置されてきたのは、対ロシアや北朝鮮などで行き詰まっている外交も同じである。

 イラン情勢の緊迫化を受け、ホルムズ海峡周辺の安全確保に向けた米国の有志連合構想への日本の参加の是非が焦点となっている。日米貿易交渉はヤマ場を迎える。

 いずれも、対米追随の姿勢では国益を大きく損ねかねない。首相は丁寧に方針を説明すべきだ。

■問題多い首相の狭量

 狭量とも言うべき首相の政治姿勢にも苦言を呈しておきたい。

 首相は街頭で「あの民主党政権の時代に逆戻りするわけにはいかない」と野党批判を繰り返し、立憲民主党の枝野幸男代表について「民主党の枝野さん」と呼んだ。

 民主党政権の負の印象をすり込むのが有効な戦術とみたのだろう。公党をおとしめるような攻撃は宰相としての品格が問われる。

 自民党は政権に批判的な人たちのやじを警戒し、首相の遊説日程を事前に公表しなかった。

 指導者に必要なのは異なる意見に耳を傾けつつ、自身の考えに理解を求める対話の姿勢だ。にもかかわらず、街頭で語りかけるのは支持者だけで反対者は遠ざける。

 こうした態度の先に待ち受けるのは社会の分断と亀裂ではないか。そう憂慮せざるを得ない。

■野党は一体感足りぬ

 野党は今回も「多弱」を脱することができなかった。共闘した1人区で議席は3年前を下回った。前回2議席を得た道選挙区も立憲民主党の1議席にとどまった。

 敗因として大きいのは、立憲民主党と国民民主党の確執だろう。

 旧民進党分裂の後遺症を引きずって国会で内向きの主導権争いを繰り広げ、野党全体の議席増を目指す一体感に欠けていた。政策面でも、「反安倍」以外に共闘の旗印が鮮明だったとは言えない。

 これでは国民の期待が高まらなかったのもやむを得ない。

 とりわけ、野党第1党の立憲の責任は重い。立憲自体の議席は増やしたものの、自らの足場固めを優先したとの印象が否めない。

 早い時期から共闘を主導し、有権者への浸透を図っていれば結果は違ったかもしれない。

 安倍政権下で深刻な立法府の形骸化に歯止めをかけるには、政権批判の受け皿を整え、首相の攻撃をはね返す力量を野党が持つことが死活的に重要である。

 次期衆院選に向け、選挙戦術と政策の両面で抜本的な戦略の練り直しを急ぐべきだ。

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