卓上四季

国へ帰れ

07/18 05:00

SF映画の古典とされる「禁断の惑星」(1956年)は、宇宙への移民が始まる時代の物語だ。ある惑星で消息を絶った移民団を捜すため、調査隊が向かうと、生き残っていたのは科学者の父と娘2人だけだった。他の人々は、凶悪な怪物に殺されたという▼やがて調査隊員も次々に襲撃される。怪物の驚くべき正体は、科学者がひそかに抱く憎しみが形を成したもので、もはや本人にも制御不能だった▼こちらは憎悪や敵意を隠そうともしない。移民を受け入れ、多様性を尊重することで活力を維持してきた国のリーダーでありながら、国内の分断をあおる。トランプ米大統領が、野党民主党の非白人女性議員4氏に対し、「国に帰ったらどうか」「米国が嫌いなら出て行って構わない」などと非難した▼差別的と批判されても、トランプ氏の口は減らない。問題発言を「多くの人はとても好んでいる」と言い放ち、むしろ白人保守層の支持固めになると考えているようだ▼人種をめぐる動揺の続く米国社会である。憎しみを糧に増殖する人種差別という怪物が、何かの拍子に暴走する事態を危惧せざるを得ない▼日本も無縁とは言えまい。「国へ帰れ」「出て行け」は、在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチの常套(じょうとう)句だ。権力者の無思慮な言動がモラルを蝕(むしば)むのも米国に限らない。異常さを異常と感じなくなった時、社会は既に病んでいる。2019・7・18

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