卓上四季

トムラウシ

07/17 05:00

「山を下りて、湖のあたりでふりかえると、雲の切れ目から光の柱が立って見えた。あの光の射(さ)す場所で、神さまたちがきっと遊んでいるのだと思う。まぶしくて、健やかで、神々しい場所」▼アイヌ語でカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ばれる山々に、作家の宮下奈都さん一家が別れを告げる場面だ。2014年春までの1年間、宮下さんは夫と子どもの家族5人で十勝管内新得町トムラウシで暮らし、その様子を「神さまたちの遊ぶ庭」(光文社)につづった▼この中で、近所の人が「あの日はここも寒かったのよ。異常気象だった。七月なのに冬のセーターを出して着てたぐらいだから」と、夏山史上最悪とされる事故について語っている。8人が死亡した大雪山系トムラウシ山での遭難事故。惨事からきのうで10年がたった▼犠牲者は中高年。暴風雨の中、避難小屋を出発し、雨や寒さで体温を奪われる低体温症で亡くなった。ガイドの判断ミスが原因とされ、予備日のない無理な日程も含め、多くの教訓を残している▼残念ながら、この悲劇以降も、道内の夏山遭難は後を絶たない。事故の記憶が風化し、低体温症への警戒が薄れつつあることも懸念される▼深田久弥が「日本百名山」に「威厳があって、超俗のおもむきがある」と記したトムラウシの人気は高い。神々の庭が突然、人間に牙をむく死地に変貌することを胸に刻みたい。2019・7・17
※「カムイミンタラ」のラは小さい字

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