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<訪問>「井上陽水英訳詞集」を書いた ロバート キャンベルさん

07/14 05:00
ロバート キャンベル  富田茂樹撮影
ロバート キャンベル  富田茂樹撮影
  • ロバート キャンベル  富田茂樹撮影
  • 講談社 2916円

名曲の魅力 余白からたどる

 今年、音楽活動50周年を迎えた井上陽水。深遠な詞の世界も魅力だ。日本文学の研究者で「ボブ・ディランに見劣りしないくらいの詩人」と評する著者が50曲を英訳していくと、思わぬ“探しもの”が見つかった。

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 きっかけは8年前の夏に感染性心内膜炎で約50日間入院したこと。命の危機は脱したが心身ともに苦しい日々。ある夜、天井を見つめていると陽水の歌が自然と浮かんだ。本人と交流があり、自身の病に触れずに詞を英訳することを携帯電話のメッセージで報告すると、「ぜひおやりなさい」と返信が来た。訳詞作業は「自己治癒的な遊びで、人生の余白を彼の歌と泳ぐようでもあった」。

 書名通り、後半に原詞と英訳詞を並べて収録するが、本書の肝と言えるのは前半のエッセーだ。陽水の曲との出合いを振り返りながら、ラジオ番組での本人との対話や英訳で浮かんだ疑問、そして発見が軽妙かつ熱意ある文章でつづられる。

 余白の多さが魅力でもある歌詞は名詞の単数や複数、時制などで迷うことがあった。「いっそセレナーデ」を歌うのはI(私)なのか、We(私たち)なのか。「夢の中へ」は、時制を示す言葉が出てこない。

 本人とのやりとりでは肩すかしをくらうこともあった。だが、「傘がない」のタイトルを「I've Got No Umbrella(私には傘がない)」と訳そうとした時、本人から詞に込めた思いを告げられた。「傘は象徴。『俺』の傘ではなく、人間、人類の『傘』で平和や優しさだったりする。だから『No Umbrella』でお願いします」

 逆に子供の誕生時に書かれた「海へ来なさい」は、平易な表現で労せず訳すことができた。「命令形でも父性や心強さが溶けこんでいることに心打たれた」と話し、日本文学との共通点も見えたと笑顔を見せる。

 「最初は趣味だったものが、(自分が専門とする)古典そのものにつながっていると今感じているんです」

東京報道 大原智也

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