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<書評>「盛り」の誕生

07/14 05:00
<書評>「盛り」の誕生

久保友香著

細やかな差異化への情熱を解析
評 谷村志穂(作家)

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 女の子たちの流行は、時代とともに劇的に変わってゆく。あるときは顔を真っ黒にしてルーズソックスを履いた少女たちが、またあるときはバービー人形のようなブーツを履いた子たちが、街中にあふれた。

 そうした装いは傍目(はため)には極端な上、誰もが似たようにも見えるのだが、本書によると、日本には個人ではなく「コミュニティで作る個性」があり、実はその中にあっては皆が均一ではない。そこには、細やかなカスタマイズを行う女の子たちのエネルギーが存在する。著者は、彼女たちに丁寧な聞き取り調査を行うことで、これまで言語化されずにきたそのエネルギーの本質をうまく浮き上がらせるのに成功している。

 工学系博士号を持つ著者は、研究テーマ自体がユニークだ。博士課程で追求したのは「日本人の美意識」。浮世絵や美人画において日本人がもともと行ってきたデフォルメを幾何学的に解析し、数式で表していった。そうした研究の流れの中に、「盛(も)り」をとらえたのだ。プリクラ・メーカーを研究のパートナーとしているという。

 自分たちの「盛り」が研究されるのを面白がるかのように、時代ごとの女の子たちは自ら注いだ情熱のカスタマイズやその根源を語る。著者が時折触れる自身の「東京の少女」としてのルーツも、読者には魅力に映じるはずだ。ある日、同級生が渋谷のギャルへと変身していく。自分と同じ街に、突如生まれる流行を少し遠巻きに眺めてきた少女が、時を経てその始まりの種を探ろうとしている。数値化で解析する以前に、流行の種自体が持っていた力を、著者は実感としてとらえている。コミュニティーを卒業した少女たちのその後にも関心を寄せるのは、研究を超えた自身の疼(うず)きにも見える。

 街遊びの天才として落下した一粒の種は、ぐんぐんと伸び枝葉を広げる。そこに飛びつく女の子たちの行動力は尽きず、メーク用具やプリクラなどの技術の進歩が合わさって、刻々と新しいコミュニティーの個性が作られていく。その変遷の克明な描写に、ぞくぞくする。(太田出版 2592円)

<略歴>
くぼ・ゆか 1978年生まれ。専門はメディア環境学。日本の視覚文化の工学的な分析などを研究

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