暮らしと法律

わが子が他人にけがをさせてしまったら 札幌弁護士会・堀江健太弁護士に聞く

07/16 09:30

 わが子の成長を見守るうえで、子ども本人にけがや病気がないよう願うのは親として当然ですが、同様に「もしも、わが子が他人を傷つけてしまったら…」「けがをさせてしまったら…」などと不安を抱く親御さんも少なくないでしょう。子どもが起こしたトラブル、起こしてしまうかもしれないトラブルに、親としてどう対処すればいいのか。札幌弁護士会の堀江健太弁護士に聞きました。(聞き手・報道センター 三浦辰治)


――そもそも「子どもが他人を傷つけた」といっても、子どもがとても幼い場合と、分別のある年ごろの場合とでは、まるで意味合いが違うと思います。子どもの年齢や学年について法律的な線引きはあるのでしょうか?

札幌弁護士会・堀江健太弁護士
札幌弁護士会・堀江健太弁護士
 民法712条には「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」とあります。


 つまり、子どもが「自己の行為の責任を弁識」できるまでに成育していなければ、子ども本人には責任能力がなく、賠償責任も負わないということです。逆に、成育していれば子どもに責任能力があるということになります。

 「自己の行為の責任を弁識」というのは、単に行為の善悪が判断できるというだけではありません。やってしまった良くない行為に対し、何らかの責めを負うかもしれないということも自分で分かっている、という意味です。

 これまでの裁判例などをみると、12歳くらいまでの子どもには責任能力がなく、それを超えると責任能力があると判断されることが一般的です。とはいえ、年齢で画一的に決められるものではなく、それぞれの子どもの知能の発達状況などによって、その都度、判断されることになります。

――子どもの責任能力の有無によって、親が負う責任はどのように違うのですか?

 親が負うべき責任は、子どもの責任能力の有無でまったく異なります。

 民法714条は「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」としています。

 責任能力のない子どもが他人に損害を与えた場合は、その子を監督する義務のある人、つまり親がきちんと責任をとりなさい、ということを言っています。

 条文には、ただし書きで「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」は親に責任は生じないと明記されています。でも前段で基本的には親に責任があるとしているので、これを免れるための立証責任は親の側にあります。親は子どもの生活全般について監督義務を負っているので、広範な義務を果たしていたことを立証しなくてはならず、ハードルはかなり高くなります。

――子どもに責任能力がない場合は親が責任を負うのが大原則であり、免れることができるとしても、それは例外的であるということですね。

 そうです。一方で子どもに責任能力がある場合は、子ども自身が責任を負うのが原則です。親が714条の責任を負うことはありません。ただし、未成年者の親に監督義務があることに変わりないので、親がこの監督義務に違反し、その結果として損害が生じたと認められた場合には、親は被害者に対し損害賠償の責任を負うことになります。

 その場合に親が負う監督義務の範囲は、子どもに責任能力がない場合のそれと比べて相当狭くなり、しかも「義務違反があり、結果として損害が生じた」ことの証明は、被害者の側で行う必要があります。

――実際の裁判でも、子どもに責任能力がない場合に親が責任を負うという判断が下されきたのですか?

札幌弁護士会・堀江健太弁護士
札幌弁護士会・堀江健太弁護士
 そうですね。子どもに責任能力がなければ親の責任が認められ、免責されることはほとんどないというのが実務家の認識でした。ただ、2015年(平成27年)4月にあった最高裁の判決では、親の責任を認めなかったため、実務家を驚かせました。


 11歳11カ月の小学生が放課後、校庭でサッカーのフリーキックの練習をしていた際、誤ってボールを校外に蹴り出し、バイクの高齢者が転倒、その後に死亡した事故で、遺族が小学生とその親に損害賠償を求めたケースです。

 最高裁はまず、子どもには責任能力がないと判断しました。通常なら親の責任が問われるケースです。しかし最高裁は親にも責任がないと判断しました。

①子どもは校庭に置かれたゴールに向けてフリーキックの練習をしており、ことさら道路に向けてボールを蹴っていたわけではない

②ゴールに向けて蹴ったボールが、道路に飛び出ることが常態化していたわけでもない

③親は子どもに対し、危険な行為をしないよう日ごろから通常のしつけをしており、本件の行為が具体的に予見可能であるなど特別な事情があったこともうかがわれない

これらを考慮して、親は監督義務者として義務を怠らなかったと結論づけたのです。

――この判決は今後に影響しそうですか?

 これまでの裁判では、責任能力がない子どもの親の責任が、ほぼ認められる傾向がありました。事実、本件の地裁判決でも高裁判決でも親の責任が認められています。最高裁の判決を受けて、そのような傾向に歯止めがかかるかもしれません。親の目から離れている学校の敷地内で普通にスポーツの練習していた子どもの行為に親の責任が及ぶことについて、違和感を持つ方もおられるのではないでしょうか。

――実際にわが子が他人にけがを負わせてしまったら、トラブルを深刻化させないため親として何をすべきでしょうか?

 相手側に対して誠実に謝罪することは当然です。その上で適切な賠償を行うことが何よりの解決策となります。

 とはいえ、例えば相手が死亡してしまった場合や、重い後遺症が残ってしまった場合には賠償額はかなりの高額となり、場合によっては億を超えます。そのようなケースでも賠償責任を果たせるよう、個人賠償責任保険に入っておくことをおすすめします。

 火災保険や自動車保険の特約として無料で自動的に付帯されているものもありますし、単体の保険として契約するものもあります。ただ、これらは賠償額の上限が決められているものが多いので、できれば火災保険や自動車保険の特約として有料で契約して賠償額が無制限のものを選びたいところです。私も子を持つ親ですので、安心のため賠償額が無制限の特約を選べる自動車保険に乗り換えました。

 子どもを育てていれば、いつ何が起きるか分かりません。中には、自分が個人賠償責任保険に入っていることに気づいていない人もいます。いざという時に途方に暮れないよう、自動車保険や火災保険の契約内容をよく見直して、現状で備えが十分なのか、じっくり検討してみてはいかがでしょうか。

<ほりえ・けんた>1978年、十勝管内音更町生まれ。函館ラ・サール高校、中央大法学部卒。2004年に札幌で弁護士登録。08年に札幌市中央区内に堀江・大崎・綱森法律事務所を開設した。最近の趣味はこの春、自宅の庭に敷設した芝生の手入れ。まめな水やりと芝刈りに苦労しつつ、でき上がった緑の絨毯の感触を楽しんでいる。

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