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<子どもを守ろう>第6部 未来に向けて(6) 教育費、負担軽減へ一歩

2019/06/19 05:00
コンペで採用された海老名市内の中学校のジャージー。伸縮性があり、着心地にも配慮されている
コンペで採用された海老名市内の中学校のジャージー。伸縮性があり、着心地にも配慮されている

 「義務教育は、これを無償とする」

 憲法26条はこう規定する。だが、無償の範囲は授業料と教科書代に限られているのが現実だ。制服代や教材費、給食費…。保護者の年間平均負担額は公立小で約10万円、公立中で約18万円に上る。

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 昨年2月、学校現場に焦点を当てた連載第3部「学び場から」で、家計を圧迫する私費負担問題を取り上げた。道内の状況がその後も大きく変わらない中、改革を進める神奈川県海老名市の教育委員会を訪ねた。

■業者選定見直し

 「従来品より2割安くなりました。競争原理が働いたおかげで、保護者の負担を軽くすることができました」。就学支援課の小林丈記課長はこう言って紺色の新品ジャージーをみせた。

 6校ある市立中学校のうち、海老名中が新年度から採用するジャージーだった。触ると素材はソフトで伸縮性もある。けがを防ぐ目的から金属のチャックもない。上下と短パンのセット価格は9千円。現行は1万1664円で、保護者は2664円節約できる。

 秘密は選定の見直しにあった。すべての市立中は約20年にわたり、指定ジャージーを県内の同一メーカーに任せていた。市教委は私費負担問題を議論する過程でその「慣例」を転換させ、モデル校の海老名中が昨年8月、コンペを行った。名乗りを上げたのは全国の13社。市教委は「5社程度と予想していたので驚いた」という。

 海老名中は保護者も加えて審査し、最終的に東京の大手メーカーの製品に決定。その際、少しでも安くするため、学年別の色も廃止した。小林課長は「兄弟姉妹へのお下がりとして使える利点も生まれました」。

 市教委は2017年、市立小中学校の校長や保護者らで構成する保護者負担経費検討委員会を設置した。昨年9月、ジャージーのコンペ結果も踏まえ、「保護者経費負担の在り方についての方針」を策定。《1》ジャージーのほか、上履きや卒業アルバムなどでのコンペ検討《2》運動用シャツなどの自由化《3》保護者への経費説明―など各小中が価格抑制を進めるための具体策を示した。各校は新年度から本格的に取り組むことになる。

 私費負担の軽減に向けては学校側の業務も増える。市教委は学校にしわ寄せが及ばないよう、コンペの際の業者募集や告知事務作業を受け持つなどの支援にも力を入れていく。

 「学校で決められたら親は声を出せない。自分の経験もあるんですよ」。今回の改革は市教委主導。旗振り役の一人、伊藤文康教育長(63)は始めた理由をこう語った。

 長年、海老名市内の小学校の教壇に立った元教員。「給食費」「教材費」「学級費」…。担任時代は集金袋を配っても、期限内に持ってこない子どもがいた。だが、親に催促の電話をかけるのは気が引けた。「学校はけっこうお金がかかる」。現役時代、いつもそう感じていた。

■行政が旗振り役

 一方、学校現場では今、長時間勤務が問題になっており、私費負担の軽減を教員だけに任せることは難しい。そもそも「お金の問題」は本来業務でないだけに慣れていない。「だからこそ行政側の支援が欠かせない」。教育長の立場になり、改革を実行に移した。

 私自身も神奈川県大和市で過ごした小学生時代、私費負担で疑問に思ったことがあった。取材中、いつもそのことが頭をよぎった。

 授業で使う書道セット。使う機会が少ないため、一つを別学年の兄と使い回していたが、ある時、担任に自分用を購入するよう言い渡された。2セットも買う必要があったのだろうか。

 文部科学省は昨年3月、各都道府県教委などに保護者の負担を減らす対策を進めるよう要請した。道教委も今年2月、道立学校や各市町村教委に対し、制服費用を抑える取り組みを促す通知を出すなど、改革への一歩を踏み出した。

 道内の教育委員会、教員、保護者。3者が問題意識をしっかり共有しなければ、改革はかけ声倒れに終わってしまう。社会の格差がますます広がる中、その歩みを止めてはならない。(宇佐美裕次)


 一昨年10月から6部にわたり連載してきた企画「子どもを守ろう」はこれで終わります。
(2019年3月29日掲載)

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