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<子どもを守ろう>第5部 児相のいま 専門家インタビュー(下) 弁護士・岩城正光さん 虐待事案検証、徹底的に

06/17 05:00
岩城正光さん
岩城正光さん

 児童虐待死事件を分析する国の社会保障審議会のメンバーなどを務め、多くの事例検証に関わってきました。自治体の有識者委員会が取りまとめる虐待に関する「検証報告書」を数多く見てきましたが、表面的な検証が目立ち、現場で生かされていないと感じます。有識者委は「実務を変える」との決意で事案を徹底的に掘り下げるべきです。

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■背景に深く迫る

 道内では4件の虐待死事件の検証報告書が作成されましたが、どれも児童相談所(児相)と他機関の「連携不足」などの経緯に触れているだけ。児相の体制や地域の事情、虐待した親の成育歴といった事件の背景に深く迫れていません。

 本質を浮かび上がらせるには、事務局が用意した資料だけに頼らず、委員自ら遺族や近隣住民から話を直接聞き、生活状況を把握したり、裁判を傍聴したりして主体的に情報を集めなければなりません。

 自治体による委員の人選も重要となります。現状は学識者に偏りがちです。現場の業務量や仕事の進め方を把握している児相勤務経験者を加えるなどバランスを取るべきです。

 検証は責任追及の場ではありませんが、「なぜ事件は起きたのか」「どうすれば子どもを救えたのか」を突き詰め、責任の所在を明確にすることは重要です。これをしなければ改善点を導き出せません。

 私は2012年、名古屋市の有識者委員会の委員として、14歳の子どもが母親の交際相手から虐待を受けて死亡した事件の検証報告書の作成を担いました。その過程で表の縦軸に日時、横軸に児相や学校など関わった関係機関を並べました。ある時点における関係機関の対応を示すことで、各機関の間の認識の違いなどが一目瞭然となります。表には「どこで誰がどうすれば事件を防げたのか」という点に関する各委員の意見も書き込みました。

 最終的な報告書は計79ページに及びました。表作りにより、危機的局面に入っていく転換点がはっきり浮かび上がり、どの時点でどんな対応をすべきかが見えてきました。報告書は児相職員の今後の実務に役立つものになったと思います。

■報告対象拡大を

 有識者委員会の多くが報告書を完成させた段階で解散しています。これでは責任を果たしたとは言えません。14歳の子どもの虐待死事件を担当した私たちの有識者委は名古屋市に提言しました。報告書公表の1年後、同じメンバーで児相などの再発防止策の実施状況を検証するという内容で、市は受け入れました。監視の目を向けることで、市は児相に一時保護に特化した専門部署を設けるなど素早い対応を取りました。

 現在、検証報告書の対象は行政機関が関わった重大事案に事実上限定されています。あらゆる死亡事例を対象にすれば、これまで見過ごされていた事実が必ず見えてきます。虐待問題を解決するためには今後、児相などと接点を持つことなく孤立してしまった親子の事件にも目を向けるべきです。(聞き手・角田悠馬)
=おわり=

いわき・まさてる 中央大大学院博士課程修了。愛知県弁護士会所属。2004~11年に国の社会保障審議会の専門委員として全国の児童虐待事例を分析。08年に高知県、11年に名古屋市で有識者委員会のメンバーに加わり、虐待死事案の検証報告書作りに携わった。63歳。
(2018年8月3日掲載)

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