卓上四季

麦の秋

05/25 11:16 更新

風に揺れる麦穂の間を花嫁行列が進む。これを眺めながら、老夫婦が、結婚した娘をはじめ、離れ離れになった家族に思いをはせる。小津安二郎監督「麦秋(ばくしゅう)」(1951年)の印象深いラストシーンだ▼実った麦を収穫する「麦の秋」は、本州では初夏のちょうど今ごろを指す。「熟れ麦の息する風とおもひけり」(木下夕爾(ゆうじ))。金色の穂波が目に浮かぶようだ。苗を植えたばかりの淡いグリーンの水田が隣にあれば、麦の黄は一段と映え、そよ風の心地よさも増すだろう▼昔は全国どこでも見かける風景だったが、本州では麦の作付けが減り、様変わりしてしまった。輸入物に押され、小麦の自給率は14%にすぎない▼急速に現実感を失いつつある麦秋が、北海道では生きている。道内の秋まき小麦の取り入れは盛夏。麦の色は一層輝かしい▼そんな希望の季節を前に、道内の農業関係者に不安の影を落とすのが日米貿易交渉だ。環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定が相次いで発効した。肉や乳製品などで自由化の荒波をかぶる北海道農業に、追い打ちをかけるような交渉と言うほかない▼「農産物の関税をなくしたい」と公言し、妥結を急ぐトランプ大統領がきょう来日する。これ以上の犠牲を、農業に強いる譲歩は受け入れられない。輝く麦畑も、緑まぶしい水田や牧場も、決して譲れない私たち道民の宝である。2019・5・25

[PR]
ページの先頭へ戻る