卓上四季

ピンコロと健康寿命

04/24 05:00

「大丈夫か」「大丈夫よ」。元プロ野球の名捕手野村克也さんと、サッチーこと妻の故・沙知代さんとの最後の会話だ。沙知代さんはテーブルに突っ伏したまま、あっけなく亡くなった▼突然の死に涙も出ず、心の穴を埋められない。野村さんは妻ががんで亡くなったとしたら、と考える。残された時間でお別れの準備をして、穏やかに見送れたのではないか―と。自著「ありがとうを言えなくて」で語る▼苦しまず、家族らに迷惑をかけず、ぽっくりと逝く。沙知代さんの死は、いわゆる「ピンピンコロリ」と言われる亡くなり方だ▼ピンコロ地蔵やぽっくり寺は全国各地にある。それだけピンコロを望むお年寄りが多いということかもしれない。ただ、残された側はどうだろう。満足にお別れもできず、悔いを残し喪失感に苦しむことはないか▼政府は健康に生活できる期間である健康寿命を、2040年までに男女とも3年以上延ばす目標を掲げると決めた。日本は世界有数の長寿国だが、平均寿命と健康寿命の差、つまり老後に支障を抱えて暮らす期間は男性9年、女性12年と決して短くない▼健康寿命が延びることは喜ばしい。結果的にピンコロも増えよう。ただ、要介護になったとしても周囲に過剰な負担とならず、安らかに生を終えられる制度作りも忘れてはなるまい。最愛の人との最後の会話が、「大丈夫か」だけになるのも切ない。2019・4・24

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