卓上四季

アイヌ新法

04/20 05:00

アイヌ文様を見ると、胸の辺りが削られるような思いになる。「アイス」の文字が「アイヌ」に見えて、おびえてしまう―。アイヌ民族の思いを伝えようと、北海道新聞が1990年に手がけた連載「銀のしずく」には、差別に苦しむ人たちの深い悲しみが描かれる▼学校で、就職で、結婚で、差別はあちこちで行われてきた。大昔の遠い国の出来事ではない。わずか数十年前、北海道でのことだ。そしていまも厳然として残る▼2015年の政府調査では、差別や偏見が「あると思う」と答えたアイヌ民族は72%に上ったが、国民全体では18%しかなかった。足を踏んだ人は踏まれた人の痛みが分からない、ということか▼アイヌ民族を初めて法律で「先住民族」と位置づけたアイヌ新法は、差別や権利侵害を禁じる基本理念を掲げる。しかし、実効性には疑問符が付く。明治以降、政府は同化政策を進め、土地や文化、言葉を奪ってきた。こうした経緯に触れていないからだ▼新法には文化や産業、観光振興に向けた交付金制度の創設なども盛り込まれたが、虐げられてきた歴史への理解が深まらなければ、制度は「特権」と映りかねない。新たな偏見につながる恐れすらあろう▼新法はあくまでも、「はじめの一歩」にすぎない。国民全体でアイヌ民族の未来を考えるきっかけにしたい。権利回復の取り組みを、これで終わりにしてはならない。2019・4・20

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