新北海道ひと紀行

第18部 小樽・すしのまちを支える(1) 母娘二人三脚 味を継ぐ

04/06 05:00
色摩久子さん(左)、洋子さん 先代が残した店舗で。小樽のすしの伝統を紡ぐ(小室泰規撮影)
色摩久子さん(左)、洋子さん 先代が残した店舗で。小樽のすしの伝統を紡ぐ(小室泰規撮影)
  • 色摩久子さん(左)、洋子さん 先代が残した店舗で。小樽のすしの伝統を紡ぐ(小室泰規撮影)
  • 北海道の食材が楽しめるしかまの人気メニュー「お任せ握り」
  • すしや和食が楽しめる「しかま」

 港町・小樽は「すしのまち」とも呼ばれる。年間800万人の観光客で活気づき、すし職人が腕を振るう。この味わいを多方面で支える人々もいる。第18部は4回。すしに懸ける人たちを追う。

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 市中心部の老舗(しにせ)5店でつくる「小樽寿司(すし)屋通り名店会」に加盟するすし店「しかま」。店内でねじり鉢巻きを締めているのが色摩(しかま)久子さん(70)。100店近くが軒を連ねる小樽で珍しい女性のすし職人だ。

 店に立つと、活気が生まれる。常連客から「かあちゃん」「ママ」と呼ばれる。「ママ、握ってよ」と頼まれると、熟練した手さばきを見せる。「まあまあの腕でしょ」と冗談っぽく笑う。

 久子さんの夫は、昨年7月に71歳で亡くなった先代社長の文孝さん。実家が経営する小樽のすし店で修業した後、1973年に独立した。当初の職人は文孝さんのみだった。久子さんの実家は後志管内積丹町の漁師。魚の扱いに慣れていた。軍艦巻きを作ったりして、夫婦で店を切り盛りした。

■賄いで握り始め 
 賄い用として、すしネタの切れ端を使って握り始めた。文孝さんから「シャリに空気を入れるように」と指導を受け、腕を磨いた。「夫婦というよりは職人対職人だった」。開店から4年ほどの29歳のとき、なじみの客から「握って」と頼まれた。緊張しながら、すしを出したところ、客は喜んだ。職人の道を決意した瞬間だった。

 80年代に入ると、小樽観光はすし、小樽運河、ガラスの3本柱で全国的なブームになった。しかまは小樽で最大3店舗を展開した時期もある。久子さんは包丁1本を手に、各店を回った。快活な性格と語り口でファンが多い。道外から30年以上通い続ける常連客もいる。「お客さんに育ててもらった。季節になると、イクラや果物を互いに送り合ったり。長い付き合いだね」

 女性職人は、男性より手が温かいため、すしネタの鮮度が落ち、おいしくないという風説がある。だが、久子さんは「技術があれば、手が冷たいとか温かいとかは関係ない」と言う。久子さんの義母(故人)もすし職人。「色摩と言えば、女性が握るというイメージ。抵抗がなかったのかも」

 最近は男性職人3人に握りを任せ、厨房(ちゅうぼう)で焼き物などの料理を担当する。店の状況を見ながら、カウンターに立つこともある。すしを握ったり、客と会話したり。あと10年ほどで、すし職人として50年。「これからも日々勉強しないと。終わりはないよ」。職人としてのプライドをのぞかせる。

■新メニューに力 
 久子さんの長女洋子さん(38)は昨年6月、2代目社長になった。その1カ月後、会長に退き、娘を支えていた文孝さんが亡くなった。洋子さんは「慌ただしい日々が少しずつ落ち着き、責任の重さを日々実感している」と話す。

 幼少期から店で忙しく働く親を見ていた。最初は店を継ぐ気がなかった。だが、兄が小樽を離れ、老舗の跡継ぎはいなかった。「親のそばで店を残そう」。気持ちが変わった。高校を卒業し、すぐに店で働いた。今も調理や接客で現場に立つ。久子さんは「よく継いでくれたよ」と感謝する。

 洋子さんは、久子さんの料理を継承しようと励む。店で出すニシン漬けなどのレシピはない。「しかまの味を盗まないと」。見よう見まねで覚えている。ただ、信頼できる職人がいるから、母のようにすしは握らない。「うらやましいときもある。けれども、あれもこれもできないから」

 新たなメニューづくりには力を入れる。脂の乗ったトロを多くしたにぎりずしのセット、カニやエビを中心にした天ぷらの盛り合わせ…。「すしを食べ慣れた外国人観光客が増えている。飽きないように味を高めていかなくては」。以前はなかった焼き魚も取り入れた。「印象が悪いと、小樽の他の店にも迷惑がかかるから」。小樽のブランドも背負う。

 文孝さんは小樽寿司屋通り名店会の呼び掛け人の一人だった。同業者とともに、小樽のすしを売り出した。「他の店舗と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、父のように小樽を盛り上げていきたい」

 2代目は、店の玄関で見守る父の写真に誓う。(谷本雄也)

 小樽市花園1の2の5、(電)0134・25・4040。北海道の旬の食材が楽しめる12貫入りの「お任せ握り」(税別3600円)が人気で、ウニやイクラといった小樽特選のすしと小鉢、小樽のワインが付いた「華握りセット」(同2700円)などが地元の女性客や観光客を中心に好評。一品料理ではお持ち帰りもできる「若鳥半身揚げ」(同1350円)がお薦め。営業時間は平日が午前11時~午後3時と午後5時~同9時。土、日曜、祝日が午前11時~午後9時。火曜定休。ホームページのアドレスはhttp://www.shikamazushi.co.jp/

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