くらし探り隊

マウンティングなぜ起きる 自分の優位性を誇示 性差や立場を越え、職場でも

04/07 21:54 更新
マウンティングなぜ起きる 自分の優位性を誇示 性差や立場を越え、職場でも
  • マウンティングなぜ起きる 自分の優位性を誇示 性差や立場を越え、職場でも
  • 「マウンティング」をしてくる人の特徴や接し方を紹介した本。出版数が増えている

 自分は目の前の相手に負けているのではないか―。こんな不安に襲われた時、他人に対し優位に立とうとする行為を「マウンティング」と呼ぶ。従来は女性同士に限られたものとみられがちだったが、今は職場を中心に性別や立場の差を越えて行われている。マウンティングが起きる背景や対処法について考えた。

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 「これからどうするの? 早く子供を産まないと」

 「良枝もうまくいけば、医者の奥さんになれたのにね」

 胆振管内の会社員良枝さん(50)=仮名=は、20代から30代にかけて、中学時代の同級生に会うたびにこう言われ続けた。同級生は、良枝さんが企画した合コンで出会った医師と結婚した。それなのに良枝さんには厳しく接した。当時はマウンティングという言葉が浸透していない時代。良枝さんは「我慢してつきあうしかないと思っていた」と振り返り、「今思えば彼女は私を使って自分の選択を肯定しようとしていたのかもしれない」と話す。

 良枝さんは独身だが彼氏がおり、企業の管理職として多忙な日々を送る。この同級生とは今でも時々誘われて食事に行くが「『良枝は仕事もあるし、自由に彼氏と会えていいわよね』と嫉妬してくる。本当に面倒くさい」と語る。

 マウンティングという言葉が注目を集めたのは、2014年発刊の「女は笑顔で殴りあう~マウンティング女子の実態」(筑摩書房)がきっかけだ。釧路出身の漫画家瀧波ユカリさんと、エッセイスト犬山紙子さんの共著。女性が仕事や容姿、夫の年収、子供の学歴などを引き合いに上位に立とうとするやりとりを紹介して話題を呼んだ。

 同社営業部の尾竹伸さんは「多くの女性読者から『これまで何度も感じてきたモヤモヤの正体がやっと分かった』『言い得て妙な名前をつけてくれたおかげですっきりした』などと共感していただいた」と話す。

 だがこのマウンティング、職場を中心に、女性同士に限ったものでなくなっているようだ。

 道央在住の洋次さん(47)=同=は、30代の6年間、一緒に働いた50代の男性上司を思い出す。洋次さんが社内の会議で説明を始めると、上司は他の社員もいる前で、毎回のように「それは違うだろう」と洋次さんの説明を遮り、持論を展開したという。

 この上司は、洋次さんをこの部署に異動するよう後押ししてくれた人だけに恩義は感じているが、苦い記憶が残る。洋次さんは「自分もサラリーマンだから『昇進したい』という気持ちは分かる。でも、部下に恥をかかせてまで、自己アピールする必要はあるのでしょうか」と訴える。

 渡島管内の明子さん(38)=同=は今春、15年勤めた会社で管理職に昇進した。ある日、男性上司(57)から意見を求められて発言すると、「君は何も分かっていない」と一蹴された。その後も上司は、明子さんに経験や人脈を引き継ごうとせず、過去にうまくいった仕事の自慢ばかり。「後進を育てて組織を活性化させようという意識がない」と嘆く。

 年下の人が目上の人に対して行う場合もある。札幌市の志乃さん(43)=同=は、10歳年下の同僚男性が作った資料の順番が入れ違っていたため、修正を頼んだ。男性はすぐさま志乃さんの資料を引っ張り出して文字の誤りを見つけ、「僕が直しておきました」と突き返してきた。意趣返しとも取れる行為に、志乃さんは「自尊心が傷ついたのでしょうね」と話す。

■「順序確認」の行為 人間は手法が複雑

 マウンティングという言葉を辞書で引いた。

 「サルがほかのサルの尻に乗り、交尾の姿勢をとること。霊長類に見られ、雌雄に関係なく行われる。動物社会における順序確認の行為で、一方は優位を誇示し他方は無抵抗を示して、攻撃を抑止したり社会的関係を調停したりする。馬乗り行為」(大辞林第3版)

 動物の本能ともいえる行動だが、人間の場合はそこにプライドが関わり、動機や手法は複雑かつ巧妙になる。

 同級生にマウンティングされ続けた、冒頭の良枝さんは語る。「自分の置かれた環境を認められず、不安なままでいたら幸せになんてなれないですよね」。マウンティングをしないためには、自分を常に律する必要がありそうだ。

■「不安の源」まず探る 真っ正面から受け止めない 産業医・大室さんに聞く対処法

 他人の優位に立とうとする「マウンティング」という行為はなぜ起きるのか。もし遭遇した時はどう対応したらいいのか。大手企業など約30社で社員らの相談に応じている、産業医の大室正志さん(41)=東京都在住=に聞いた。

 ――人はなぜマウンティングするのでしょうか。

 「人間には、自分と他人を比べてしまう本能があるからです。自分とは違う価値観を持って生きている人を見ると、これまで自分がしてきたことが間違っているのではないかと不安になり、自分の方が優位だと確認したくなるのです。弱い自分を守るための防衛反応とも言えます」

 ――「マウンティング」が注目を集めた時は、女性同士に起きる現象として話題を呼びました。

 「女性は結婚して専業主婦になるか、仕事に専念する道を選ぶかなど生き方の選択肢が明確でした。互いを比べても優劣は簡単に付けられないのに、自分が選ばなかった道を歩む人を見ると気持ちが揺らぐ場面が以前からあったのです。一方、いわゆる男性社会では企業の規模や年収、出世の度合いなど比較の基準がはっきりしているので、あえて優劣を確認する必要はありませんでした」

 ――近年は性別や立場の差を越えてマウンティングが広がっているそうです。

 「大企業などで出世するという男性社会の成功モデルや、年功序列を基本とした価値観が絶対的なものでなくなり、何が『勝ち組』なのか分かりにくくなったためです。2010年以降、会員制交流サイト(SNS)が急速に普及したことも大きい。個人の可能性は無限に広がりましたが、他人の動向をいつでも知ることができ、自分を他人と比較し続けるのはとてもつらい。常に競争にさらされるストレスもマウンティングの引き金になります」

 ――会社組織の中ではどうでしょうか。

 「上司は本来、部下の話を聞き不安を解消する役割のはずですが、不安定な世の中になり、上司も周囲からのプレッシャーと戦っています。部下にマウンティングという形で不安をぶつけてくる上司は今後も増えるでしょう。たたき上げの男性上司が高学歴の女性の新入社員にマウンティングし、関係が悪化する例が目立ちます。逆に新米の上司が経験豊富な部下から責められる例もあります」

 「上司が部下に大声を出したり、人格を否定するような発言をしたりするパワハラが禁止になったこともマウンティングの温床といえます。自分がこれまで上司にされたような言動が封じられ、婉曲(えんきょく)的に部下に優位を示さざるを得ず、結果的にマウンティングと取られてしまうのです」

 ――マウンティングされたと感じた時の対処法はありますか。

 「真っ正面から受け止めず、まず『なぜこの人はこんなことを言うのだろう』と考えてみてください。相手は無意識に行動していることもあるので、まずは受け流し、相手の不安の源を探りましょう。客や患者から感情をぶつけられやすい航空機の客室乗務員や看護師などの職種では、相手の気持ちに思いを巡らせることで自分の気持ちを守り、その後の対処法を見つけやすくしているそうです」

 ――自分の心の持ちようが大切なのですね。

 「自分がどんなことに優先順位を置いているのかを明確にしておくと、マウンティングされた時に踊らされたり、傷ついたりせずに済みます。この順位が揺らぐと不安になり、無意識に人をおとしめてしまうことがある。マウンティングする時もされて不快に思う時も、実は自分自身の問題。どんな時に感情が揺れてしまうのかを知っておくことで、ある程度自制できるのではないでしょうか」

<編集後記>

 15年ほど前、学生時代の同期で集まった時のこと。ある友人からマウンティングに遭った。「阿部ちゃんがいる会社、サイテーだよね」「あんな人がいいの、趣味悪っ」。その場にいた他の同期の表情が凍り付くほどで、いたたまれなくなり早々に引き上げた。

 友人は結婚後、有名企業を退職して子育て中だった。一方、当時の私といえば、今の会社に入る前。独身で非正規雇用。攻められる理由は見つからなかったが、何となく、友人は仕事を続けたかったのかもしれないな、と思った。

 でも、人を陥れたところで、心の中のもやもやは消えない。あの時の友人は、自分の選択に自信を持てなかったのだろう。なんてかわいそうに…。あ、これもマウンティングっぽい。(阿部里子)

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