<時評 論壇>中島岳志

大きなひび入る日韓関係 文政権の特質理解し対応策を

04/01 09:00

 元慰安婦をめぐる「和解・癒やし財団」の解散、元徴用工への賠償問題、そしてレーダー照射問題。

 日韓関係に大きなひびが入る中、右派論壇誌の見出しには「敵国」「反日」「断交」といった過激な言葉が並ぶ。今こそ文在寅(ムンジェイン)政権を冷静に分析し、対応策を吟味すべき時だが、一方的に韓国政府を断罪する感情的な論調が目立つ。

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 そのような中、『中央公論』4月号に掲載された木村幹(かん)「特異な実務派・文在寅のリーダーシップ研究」は、文大統領の足跡をひもときながら、現政権の特質と行動原理を鋭く論じる必読の論考だ。

 木村が注目するのは、文在寅の生まれた環境である。彼の両親は朝鮮戦争時に、現在の北朝鮮領域から逃れてきた「越南者」である。父は日本統治下から公務員として働いてきた「地方のエリート」だったが、「越南」によって挫折を繰り返し、人生が暗転した。文が生まれたのは朝鮮戦争休戦の1953年。本来であれば朝鮮戦争の直接の経験を持たない世代にもかかわらず、失意に沈む父の姿を通じて、南北分断の強い影響を受けた。いわば「追加された朝鮮戦争前世代」であり、この生育環境が南北統一へのこだわりを生んでいると分析する。

 文はよく知られるように、盧武鉉(ノムヒョン)のサポート役として活躍し、現在の地位に上り詰めた。盧政権の大統領府における内政部門の裏方を務めたため、具体的な政務を熟知している。一方で、極端に海外経験が薄く、大統領就任以前に日本に渡航したことがない。アメリカにも留学した長男の卒業式に出席しただけのため、海外人脈が乏しい。

 彼は秘書室長としての実務経験を武器に、政務の細々(こまごま)した部分にまで介入し、信頼する狭い範囲の人物を大統領府に配置する。そのため、幅広い意見に耳を傾けるという体制になっておらず、「意見が政府に届かない」。

 結果、対外関係の関心は北朝鮮との関係に集中し、北朝鮮の非核化に日本の役割はないと認識すると、「戦略的放置」が続く。「実務に自信を持つ一方、関心が限定された大統領をして、彼の関心から外れた部分に対して興味を持たせることは難しい」

 また、木村は田村賢司によるインタビュー(「文大統領は日本の対米影響力の低下を感じた」、日経ビジネス電子版3月12日)において、「今の政権では知日派が影響力を持っていない」と論じ、いくら知日派官僚が提言しても、大統領府は聞いておらず、「そもそも官僚の中にも日本外交に経験のある人材が減って」おり、「日本の優先順位は明らかに下がっている」と指摘する。

 韓国の知日派知識人として知られる陳昌洙(ジンチャンス)(世宗研究所首席研究委員・日本研究センター長)は「激しさを増す韓日の葛藤。その行く先は?(上)(下)」(WEBRONZA1月14日・15日)のなかで、「韓日関係の改善を目指すプレーヤーの不在」を指摘する。最近の韓国外交部では日本関係の任務を敬遠する現象まで現れ、日本側も「親韓派のはずの人たちが韓国問題に関心を持とうとしない」。

 韓国では、安倍首相の右派的理念を警戒し、「ポスト安倍」まで待つ方がいいという主張が多いが、今後「どの政治家が『ポスト安倍』を担おうとも、安倍政権の政策的な方向性が維持される公算が大きい」。だったら、「むしろ保守右派の象徴である安倍総理と交渉し、妥協の可能性を探ることが、対日政策の成果を出すためには有効ではないか」。

 陳は文政権に対して「日本との協力を活性化し、外交の選択肢を拡大するべき」と提言する。しかし、木村が指摘するように、このような知日派の意見が大統領府に届かない現政権の構造的問題が立ちはだかる。

 どうすればいいのか。木村は、日韓両国の対立を見守る関係諸国が大きな鍵を握っていると指摘する。「ただがむしゃらに『自らの言いたいことをいう』のではなく、米国をはじめとする関係諸国が日本の立場を支持する方向に導くような、『賢い行動』が必要になる」

 安易な諦念や過激な暴言は、マイナスの効果しか生み出さない。文政権の特質を理解した上で、複合的なアプローチが求められる。

(なかじま・たけし=東京工業大教授)

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