卓上四季

家に帰りたい

09/13 05:00

詩人の高階杞一(きいち)さんが旅から帰ると、3歳の一人息子が亡くなっていた。生後間もないころから、重い病気で手術を繰り返し、ようやく一緒に暮らせるようになった直後のことだった。その子がいじって遊んでいたCDデッキをかけると、サイモンとガーファンクルの「早く家(うち)へ帰りたい」が流れてきた▼汽車で巡業を続ける歌手が孤独のあまり、ふと思う。これが家路だったらいいのに―。こんな内容の歌詞だ。幼い子に意味など分かるはずもないが、親にはメッセージのように聞こえた▼高階さんの同名の詩は「天国の安らげる場所へ早く帰りたいという意味なのか それともぼくに 早く帰ってきてという意味だったのか」と問いかける▼最後の一節は、とりわけ胸に迫る。「ぼくは 早く家へ帰りたい 時間の川をさかのぼって あの日よりもっと前までさかのぼって もう一度 扉をあけるところから やりなおしたい」▼思いがけない災害や事故が、不条理な出来事を引き起こす。何の理由もなく人生を断ち切られてしまう人がいる。「平穏だった、あの日に帰りたい」「そこからやり直したい」。そんな不幸に見舞われるたびに、残された人たちは、高階さんのような気持ちになったのではないか▼胆振東部地震の発生から1週間。もちろん時間を巻き戻すことはできない。だからこそ、多くの道民と手を携え、被災者に寄り添いたい。2018・9・13

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