文化・芸能

<書評>プラナカン

09/09 05:00
<書評>プラナカン

太田泰彦著

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隠然とした力持つ華人の子孫
評 麻生晴一郎(ルポライター)

 15世紀以降、中国から東南アジアに渡り現地人と結婚した華人の子孫をプラナカンと言う。中国系だが、中国人とは異なる習慣や文化を持つ彼らは、現地を植民地支配した英国やオランダの下でゴム、スパイスの貿易などで財を成し上流階級となった。シンガポールを建国したリー・クアンユーもプラナカンだが出自を隠し続けたように、彼らは東南アジアで隠然とした力を持ちながらも、その正体は謎に包まれている。

 本書は、東南アジア各地に存在するプラナカンのコミュニティーを訪ね、その輝かしい歴史や日本占領時代の苦難、それに世界各地の文化が混ざりあった独特の文化など伝統を守る今の人々を紹介し、プラナカンを通した東南アジア近現代史と言える一冊に仕上がっている。

 砂糖の海上輸送に従事したリー・クアンユーの祖父は、商売相手の英国人に見下されないために英国風の生活習慣を身に付け、地元民とは一線を画した規律ある行動を自分に課したという。こうしたプラナカンとしての人生信条が、独自の経済発展を遂げたシンガポールの姿に反映しているように思わされる。また、19世紀のシンガポールの貿易商であるタン・キムチンがタイ王室の経済・外交顧問としてタイの近代化に尽力し、その子孫と結婚したタナット・コーマンはASEAN創設の立役者になったように、東南アジアの近現代史にプラナカンが大きく関わっていることがわかる。

 ひとくちにプラナカンと言っても、タイでは現地化が進んでいるように国によって違いはある。しかし共通するのは、現地に溶けこみつつ国境を越えて活躍した彼らの、多様性を受け入れながら自らの伝統も忘れない独自の生き方である。たとえばムスリムが圧倒的に多いインドネシアで、年1度のプラナカンのお祭りがイスラム教、キリスト教の関係者も交えて開かれる。そのスケールの大きさとバランスを併せ持つ感覚はグローバル化が進む日本にも参考になるのではないかと思う。(日本経済新聞出版社 1944円)

<略歴>
おおた・やすひこ 1961年生まれ。北大理学部卒。日本経済新聞社記者

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