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首相答弁に「異議あり」 市民ら発信活発化

08/28 08:58 更新

かみ合わぬ審議、街頭上映

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 市民の間で先の通常国会を振り返る動きが広がっている。東京の市民団体は法案審議の様子をまとめた映像を街頭で上映。インターネット上では、質問に正面から答えない首相答弁を「信号無視話法」と名付け、内容を色分けする手法が注目を集める。7月22日の閉会から1カ月を過ぎてなお、市民が国会にこだわる理由は共通している。「今の国会審議は異常ではないか。現状を多くの人に知ってほしい」

 今月23日午後7時。会社員や若者でごった返す東京・新宿駅前に小さなスクリーンが設置された。投映されたのは働き方改革で焦点となった、一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度に関する審議。安倍晋三首相らの答弁の様子に、行き交う人々が時折足を止める。

 国民民主党・伊藤孝恵参院議員「この期に及んでなお労働者のニーズがあると答弁するのか」

 首相「労使が参加した労働政策審議会の建議に基づき取りまとめた。経団連会長等の経済団体の代表からは導入するべきとの意見を頂いている」(6月25日、参院予算委員会)

 労働者の要望の有無は曖昧にし、提案時は主張すらせず、聞かれてもいない企業側のニーズを強弁する―。55分間の映像から浮かび上がるのは論点をずらそうとする首相らの姿だ。

 企画したのは市民団体の国会パブリックビューイング(東京)。代表を務めるのは、質問に正面から答えない政府答弁を「ご飯論法」と紹介した法政大の上西充子教授だ。ネットで機材購入などの資金を募ると1日で60万円が集まった。7月から始めた街頭上映は既に7回を数える。

 上西氏は言う。「質問にまともに答えない姿勢は、働き方改革関連法の審議に限らず閣僚や官僚など政府全体にまん延している。不誠実な答弁は、国会が終わってもなかったことにはさせない」。同団体は新たな動画を作成中、街頭上映方法をネットで公開している。

→上西充子教授のインタビューはこちら

ブログで内容色分け
 「国会審議ってこんなにひどいのか」。東京都内の会社員犬飼淳さん(32)は5月の党首討論を見て衝撃を受けた。テレビニュースで見る国会審議は編集によって首相がそれなりに答えているように見えたが、実際の質疑は全くかみ合っていなかった。自身のブログで発信することにした。

 一目で実態が分かるようにするため、色分けした首相答弁を掲載した。質問にしっかり答えると青色、質問の復唱などは黄色、関係のない答弁は赤色。「信号無視話法」と名付けた。

 共産党・志位和夫委員長「(加計(かけ)・森友学園問題を巡る公文書の)改ざん、隠蔽(いんぺい)、廃棄、虚偽答弁。なぜこのような悪質な行為が引き起こされたのか」

 首相「二度とこうしたことが起こらないようにうみを出し切り、しっかりと組織を立て直していきたい」(5月30日、党首討論)

 「なぜ」に答えていないこの答弁は赤色。犬飼さんの分析では文字数ベースで志位氏への青色答弁はなく、立憲民主党の枝野幸男代表へはわずか6%。いずれも加計・森友問題の質問で、首相がまともに答えなかったことを意味する。ブログで公表すると、普段は千~2千件の閲覧数が、7万件を超え、今も伸びている。

枝野氏の演説本好評

 扶桑社(東京)が運営するネットメディア「ハーバービジネスオンライン」の高谷洋平編集長は7月20日、知人から「枝野氏の演説がすごい」と連絡を受けた。衆院本会議のネット中継を見ると、枝野氏が熱のこもった内閣不信任決議案の趣旨弁明を行っていた。森友問題を巡る財務省の文書改ざんなど「今国会の問題点が分かりやすくまとめられていた。多くの人の目に触れる本にした方がいい」と確信した。

 高谷氏はその日のうちに出版に向けて企画書を書き、上司の快諾を得た。解説や注釈を付けて今月9日に出版すると話題になり、政治関係の書籍としては予想を上回る7万部を発行。ネット上では野党に対して「批判ばかり」「審議拒否はサボり」などと厳しい言葉も飛び交う。高谷氏は「実際の審議や演説を見たり、読んだりすれば、そうでないと分かる。民主主義や議会のあり方について考えてほしい」と語る。(津田祐慈)


憤りを反映か

 本田由紀・東京大大学院教授(教育社会学)の話 国会パブリックビューイングや枝野氏の演説の書籍化は、国会の様子を国民に分かりやく伝えるという点で非常に意味がある。国会の議事録を音読する活動も広がっており、安倍政権のひどい答弁姿勢や強引な政権運営への憤りが取り組みにつながっているのではないか。審議の上映はバーやカフェなどでもできる。学校の主権者教育の教材にもなる。国民が審議をチェックする動きがさらに拡大すれば、政府側も国民をバカにしたような答弁や振る舞いはやりにくくなるだろう。

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