北海道

「世帯分離」で支給額減 生活保護家庭からの大学進学

08/22 17:00
「世帯分離」で支給額減 生活保護家庭からの大学進学
  • 「世帯分離」で支給額減 生活保護家庭からの大学進学
  • 「世帯分離」で支給額減 生活保護家庭からの大学進学

 生活保護の受給世帯から進学した大学生らの家族のうち約6割が、進学時に子どもの分の保護費が減額される「世帯分離」の仕組みにより、食費などを節約していることが厚生労働省の調査で明らかになった。保護世帯の大学進学率は一般世帯を大きく下回っており、専門家からは制度の見直しを求める声が上がっている。道内の実情とともに制度の課題を探った。

[PR]

 現行の制度では、高校卒業後は働いて収入を得ることが原則とされ、生活保護を受けながら大学などに通うことは認められていない。進学時には、親と一緒に暮らしていても世帯分離の手続きを取り、保護の対象から外れる必要がある。そのため、世帯への保護費は減額され、例えば東京の母子2人の世帯だと毎月の支給額が5万円程度減る。

■生活水準が低下

 調査は、生活保護世帯の実態把握を目的に初めて実施。昨年11~12月、生活保護の家族と同居している大学や短大、専門学校などに在籍する4445人にアンケート用紙を郵送し、2025人から回答を得た。

 世帯分離が家族に与えた影響(複数回答)では「食費を節約している」が57%、「衣類購入を控えた」が55%に上る一方、「特にない」は5%にとどまった。子どもの進学に伴い、多くの世帯で生活水準が低下している実態が浮き彫りになった。

 親から学費の支援を受けていない学生は79%で、87%が奨学金を利用していた。奨学金の内訳(複数回答)は返済が必要な「貸与型」が73%を占め、年間平均受給額は116万円だった。四年制大学だと、事実上400万円を超える借金を抱えることになり、多くが卒業後も返済のために生活を切り詰めなくてはならない実情がうかがえる。

 アルバイトをしているのは83%。一般学生と比べて家族からの金銭的支援がほとんどない分、奨学金とアルバイトに頼らざるを得ないのが実態だ。授業の欠席理由も病気・体調不良(45%)に次いでアルバイト(12%)が多かった。

 また、受験勉強の際に塾や予備校、通信教育を利用したのは11%で、60%が「学校の教材を使用して1人で勉強した」と答えた。

■教育格差大きく

 厚労省によると、大学や専門学校などへの進学率は2017年に全国平均で73%だったのに対し、生活保護世帯は35%にとどまり、教育格差は大きい。政府は本年度、生活保護世帯の子どもが高卒後に進学する際に最大30万円の一時金を給付する制度を始めた。

 厚労省社会・援護局の担当者は「調査で明らかになった実態は文科省とも情報共有し、連携して進学支援策を検討していく」と話している。

■小久保哲郎弁護士に聞く 国の指針と矛盾 制度廃止を

 生活保護法は、保護の対象とする要件の一つに「稼働能力の活用」を挙げています。働こうとしても仕事が見つからなかったり、十分な収入を得られなかったりして、最低限の生活ができない世帯を国が支えるのが生活保護制度です。なぜ進学すると保護から外されるのか。それは国が、進学はぜいたくであり、高校卒業後は働くべきだと判断しているからです。

 日弁連などは国の考え方に異を唱えています。理由の一つは、進学は将来、より良い職に就いて自立するために必要な進路だということです。こうした若者を、怠けて働かない人と同様に扱う考え方は市民感覚とかけ離れています。

 もう一つは国の指針との矛盾です。国は普及率が70%程度を超える生活用品は、生活保護世帯が保有して良いと認めています。高校進学率が8割を超えた1970年、国は保護世帯の子どもの高校進学を認めました。大学や専門学校などの進学率は浪人を含めれば8割に達しています。高校を認めて大学を認めない論理はありません。

 親やきょうだいの生活が苦しくなることを憂慮して進学を諦める例は多い。国は入学準備金の支給を始めましたが、全く不十分です。進学率が低い主因は保護費のカットなのですから、国が本当に支援したいのであれば、まず世帯分離の廃止から始めるべきです。

■「実態に合わぬ」と悲鳴 道内の当事者らに聞く 奨学金頼み 返済1000万円超も

 子どもの進学に伴う、生活保護受給世帯の「世帯分離」について、道内の当事者らに話を聞いた。

 「(世帯分離で)入るお金は月3万円以上減ったのに出ていくお金はほぼ変わらないんです」。娘が今春、札幌の医療系大学に進学したマキさん(50)=仮名=は生活の困窮ぶりを訴える。

 世帯分離で娘の分の生活費が削られたが、実際には娘と同居している。光熱費や食費は、減った生活費の中から娘の分も何とか捻出しているのが実情だ。

 娘は貸与型の奨学金を月に16万~17万円借りており、卒業後の返済額は6年間で計約1200万円に達する。忙しい学業の合間にアルバイトをすることもある。しかし勉強時間が減り、「リポートに響いた」と落ち込むこともある娘の姿に、「これでは学業に支障が出かねない。学生時代の生活費が出ないのは実態に合わない」と話す。

■「転出」でも減額

 北海道の場合、地方から札幌へ、道内から道外へと進学する例は多い。制度上、同居する世帯員の生計を分ける「世帯分離」ではなく「転出」として扱われるため、今回の厚労省の調査対象からは外れている。しかし生活保護費の減額は変わらず、「むしろ学費と生活費に住宅費の負担が加わるため、困窮ぶりは世帯分離の子どもと同程度か、それ以上」との指摘もある。

 後志管内に住むユリコさん(44)=仮名=の長男(22)は、東京の私立大に通う。貸与型の奨学金を月額22万円借りているが、寮費や学費、実験代に1カ月あたり20万円近くかかり、手元に残るのはわずかだ。

 学業への影響を避けるためか、大学ではアルバイトが原則禁止されており、ユリコさんは「せめて健康保険料や携帯電話代に」と、生活費を切り詰めて毎月1万円を仕送りしてきた。

 奨学金は4年間で計1千万円を超え、長男は首都圏で就職する予定だ。ユリコさんは「地元に戻ってほしい」と思っていたが、「道内の(企業などの)給与では奨学金を返済しづらいかも」と考え、長男には言わなかった。親の心労を間近に見てきたためか、高校生の次男は「卒業したら就職する」と言っている。「本心はわからない。でも今の制度のままでは、下の子が進学したいと言っても安心して背中を押してやれない」と嘆く。

■世界的にも貧弱

 NPO法人カコタム(札幌)は毎週土曜、札幌市北区の公共施設で、スタッフが小中高生に勉強を教える学習支援を行っている。

 中には、専門学校や大学への進学を志望する生活保護世帯の高校生もいる。金銭面での不安から、親が進学に反対する例も少なくないが、その場合も生徒に寄り添い、奨学金の種類や、どんな学費の減免制度を利用できるかなどを一緒に調べて進路を考える。

 高橋勇造理事長は「進学を選んだ場合、生徒も親も不安でいっぱいなのが現状です。進学しても生活保護で暮らせるようになると、学びの機会の格差が縮まると思う」と話す。

 進学率が低いのは、生活保護世帯の子どもに限らない。厚労省の調査などによると、大学や専門学校への進学率はひとり親家庭で58・5%(2016年度)、児童養護施設は27・1%(17年)にとどまる。

 子どもの貧困に詳しい名古屋市立大の桜井啓太准教授(社会保障論)は「日本の学費は先進国でトップクラスの高さだが、給付型奨学金の制度は非常に貧弱な珍しい国。海外では学費を低額に抑えるか、学費の高い国は給付型奨学金が充実しているのが一般的」と指摘する。教育格差を縮めるには「応急的に世帯分離の見直しを行った上で、将来的には学費そのものを低額・無料化するなど、学生全般の負担を減らす方向を目指すべきだ。そうすれば安心して進学を目指せるようになる」と提言している。(東京報道 酒井聡平、くらし報道部 酒谷信子)

ページの先頭へ戻る