卓上四季

鏡のごとし

08/18 05:00

おとこ気にあふれ、曲がったことが大嫌い。困った人を見れば助けないではいられない。映画やドラマなどに登場する一心太助は、そんな人物像で描かれる江戸時代の魚屋として知られるが、どうやら架空の人物らしい▼「一心」とは、人を救うために一心をもって臨むとの意味。腕には「一心如鏡」と入れ墨が彫られていたとか。鏡のごとき平らかな、無私の心で―ということだろう▼その心意気といい、元鮮魚店経営という経歴といい、一心太助をほうふつさせる。山口県周防大島町で行方不明の幼児を発見した尾畠春夫さんである。ニュースを見て、わざわざ自宅のある大分県から駆けつけた▼これまでも、全国の被災地支援や行方不明者の捜索に参加してきた「ボランティアの専門家」。東日本大震災では、がれきに埋もれた思い出の品を拾い集める「思い出探し隊」の隊長も務めた。今回は「子どもの習性として上に登りたがる」と考え、見事に幼児を見つけた▼喜ぶ家族が入浴や食事を勧めても辞退した。「対価、物品、飲食、一切頂かない。それが自分のやり方」と潔い。幼児を母親に引き渡し、「失礼しまーす」と、さっそうと帰って行った▼「困っている人に、手を差し伸べるのは当たり前」。御年78歳の「一心太助」は、きょうから西日本豪雨の被災地に向かう予定だという。蒸し暑い夏に、何とも爽やかな風のような人だった。2018・8・18

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