卓上四季

ねじを巻く

08/17 05:00

「神の手」と言われる外科医がいる。順天堂大の天野篤教授。天皇陛下の執刀医としても知られる、心臓血管外科の第一人者だ▼高校時代はマージャンやパチンコ、スキーに明け暮れ、日大医学部に合格したのは3浪の末だった。けれど、浪人生活は決して無駄ではなかったという▼さまざまなことを考え、悩み、たくさんの経験をした3年間は人生の「ねじを巻く時間だった」と語る(自著「熱く生きる」)。しっかりねじを巻けたからこそ、その後の頑張りにつながった―というのだ。現役で入学していたら、挫折を知らない、人の痛みの分からない医師になっていたかもしれないと振り返る▼東京医科大関係者はこの言葉をどう受け止めるか。同大は女子受験生だけでなく、3浪以上の男子受験生も得点を操作して合格を抑制していた。入学後、成績が伸び悩む傾向があるとの理由だ▼しかし、現役と浪人で成績の差がどれほど出るだろうか。大切なのはやる気ではないのか。天野さんは入学後、心臓病の父親を自分で治したい一心で研さんを積み、「神の手」になった▼差別に基づく不当な得点操作は、多くの女子受験生や男子浪人生たちの夢と志を踏みにじった。同時に優秀な医師に成長したかもしれない「金の卵」を、みすみすつぶしてしまった可能性すらあるのだ。同大だけの問題ではない。社会にとって損失と言っても過言ではない。2018・8・17

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