経済

「働き方改革」成功へのステップとは? 効果的なデジタルワークスタイルの実現

07/02 17:17

富士通総研経済研究所上席主任研究員
マルティン・シュルツ(Martin Schulz)

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 日本政府は構造改革の一環として、企業の生産性向上と従業員のワークライフバランスを同時に改善する「働き方改革」に注力している。労働時間の柔軟性を高めつつ、時間外労働時間を規制することについて繰り広げられる熱い議論は、そのような改革がいかに難しいかを示してもいる。私たちの国際的な研究から判断すると、最も重要なことは、政府ではなく企業によって改革が行われるということである。企業は従業員に対して使いやすいICT(Information & Communication Technology=情報通信技術)を導入し生産性をサポートするとともに、プロフェッショナルなスキルとワークライフバランス(WLB)それぞれの向上を通じて、より効果的なデジタルワークスタイルの実現に注力する必要がある

■米独仏の働き方改革

 働き方改革で日本は、新しいICTを利用したワークスタイルへの適応がかなり遅れている。逆に言えば、他の国からの教訓や事例を活用しながら適切なステップを踏み出し、さらに先を考えることができる。

 ここで、世界各国の働き方改革の新たな流れとして、三つの例をあげよう。

 まず米国では(アップル、アマゾン、グーグルなどのテクノロジー企業では特に)WLBを損なわないようにしながら、幼少期からデジタルに慣れ親しんでいるミレニアル世代を積極的に採用し、彼らのワークスタイルを活用しようとしている。

 一方ドイツでは、政府が推進する製造業のデジタル化プロジェクト「インダストリー4.0」に加えて、ICTを利用して働き方の柔軟性を高めるとともにキャリア開発を行う「ワーク4.0」が進んでいる。大学は、学生が学びながら地元の企業で働くことができる「デュアル」教育プログラムを設けて、企業との協力を強化している。
 
 さらにフランスでは一歩進んで、政府が企業とは独立して社員の能力開発をサポートする「個人トレーニングアカウント」を導入した。社員は、企業のキャリア開発の一環として、特に育児や両親の介護のために休暇を取得する場合などに、多様な能力開発のプログラムに使用できるトレーニング補助金を受け取ることができる。

■ICTを利用したワークスタイル

 企業の視点から見ると、なぜ働き方改革が必要なのかを理解することは容易である。働き方改革は、日本だけではなく世界中で「働き方の未来」に変化をもたらし、生産性を向上させることに重要なインパクトを与えているからである。ICT革命の中で、企業の柔軟性を高めるためには、新しい技術を導入し、社員が学習によって新たなスキルを継続的に身につけていくことをサポートしなければならないのだ。

 ところでICTによる生産性の向上は、いままでのところ企業に利益をもたらしているが、一方で従業員にとってはより大きなストレスとなっている。

そこで、世界各地で進んでいる「働き方改革」は、春闘において賃金に劣らない重要なテーマとなっている。

 例えばドイツでは、今春の労使交渉の過程でいくつかのストライキが行われた。ストライキによって、労働者は収入が限定的にカットされるだけで子どもの養育や親の介護、自らのキャリア開発のため、2年間は労働時間を短縮でき、その後もとのフルタイムの仕事に戻ることが保証される権利を得ることができた。

■従業員13人の会社でも

 効果的な働き方改革は、企業と被雇用者双方に利益をもたらす。そして企業のICT導入が従業員のスキル向上とともに進められる場合にのみ、大きな生産性向上と業務の革新が期待できる。

 ICTを積極的に利用し、最新テクノロジーを意欲的に学習している人材を持つ先進的な企業は、ビジネスチャンスも広がる。例えば、小売店やレストランの管理業務でiPadのアプリを利用すれば、よりフレキシブルに、しかも大きな投資をせずに業務を運用することができる。社員がICTのスキルを身に付け、ICTの効率的な使い方を知っておくことが、効果的な働き方改革につながるのである。

 シンプルで効果的な方法でICTを使用している小さな伝統的な企業もある。たとえば、ドイツのミュンヘン南部、わずか13人の従業員しかいない小さな包装会社「MA-Industrie」は、生産および配送プロセスに直結する注文および設計のWebサイトを構築した。これにより従業員のスキルを向上させ、現在はヨーロッパ全域で取引を行うまでに成長した。

■従業員をサポートするため、ICTは「使いやすいもの」に

 富士通総研の経済研究所ではICTのメリット、また働き方改革とICTの関係について、日本とドイツで1200人の社員に100問からなるアンケート調査を実施した。

 ここでは、日本企業はICTの効果的な利用がかなり遅れていることが浮き彫りになった。しかし、従業員の生産性と流動性をサポートするためにICTを導入した企業は、ドイツの企業と同様の効果があることが判明した。積極的にICTを利用している日本企業では、ICTが職場の効率、柔軟性、コミュニケーションを高め、より良いWLBと、より多くの新技術の学習のために役立っているという結果となっている。


(日本とドイツの1200人の社員を対象とした100問のアンケート結果)


■学習用ICTプラットフォームで推進

 現在、ドイツの企業ではインターネットを利用した学習形態「eラーニング」による能力開発プログラムを利用して、社員が仕事やプライベートでICTスキルを向上させるように動機づけている。

 働き方改革は、企業が使いやすい消費者向けの学習用ICTプラットフォームを採用することで大幅に進めることができる。ICTプラットフォームは学習意欲を向上させ、ワークライフバランスとキャリア開発を改善する。今後政府は、学習のための企業と大学間連携の強化やICTによる外部パートナーとの協業(ソサエテイー5.0)に必要な安全基準の策定が必要となるだろう。


マルティン・シュルツ 1996年、独ベルリン自由大学経済学博士号を取得。英バース大学上級講師や東京大学経済学部研究員などを経て2010 年から現職。専門は国際経済や金融政策など。趣味はランニング


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