富士通総研 内外経済トピックス

クリエイターと地元中学生の住民参加型キャリア教育 埼玉県・横瀬町  地域での良質の学びは「交流」にヒント 

04/06 15:36

富士通総研ビジネスデザイングループマネジングコンサルタント
佐々木 哲也

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クリエイティブ勉強会の様子。大人のサポートのもと、中学生が企画から制作までをすべて自分たちの手で行う
クリエイティブ勉強会の様子。大人のサポートのもと、中学生が企画から制作までをすべて自分たちの手で行う


■地方創生のカギは人づくり

 地方創生を成功させるために、自立的でかつ創意工夫に富む地域経営が求められている。また、そのための人材づくりに取り組む地域も増えてきている。しかし、地方の15~29歳の人口は2000年から2015年の15年間で約3割(532万人)減少し、東京への転入は依然として毎年10万人以上が「超過」の状態である。このような状況で地域での人づくりはどうあるべきか。ウェブや映像分野のクリエイターを交えた地域参加型キャリア教育に取り組む「横瀬クリエイティビティー・クラス」というプロジェクトをケースに考えていきたい。

■地域一丸のキャリア教育

 プロジェクトは2017年、埼玉県の北西部、横瀬町(よこぜまち、人口約8400人)を舞台に、東京都内のクリエイターと中学生を中心とした住民が主体的に関わりあう取り組みとして生まれた。目的は社会全体での中等教育・高等教育への参画を促し、地域一丸となったキャリア教育を実現することだ。

クリエイター達による音楽、記事制作、イラスト、映像、プロデュースなどの授業の風景
クリエイター達による音楽、記事制作、イラスト、映像、プロデュースなどの授業の風景


 プロジェクトの柱は、中学生向けの「クリエイティブ勉強会」。これを通じて中学生が職業への理解を深め進路の選択肢を増やすことはもちろん、学習していることが将来どう役立つかということを自ら発見することを目指す。最終的には町外からヒト・モノ・カネ・情報を流入させ、創造的な地域づくりを行える人材を育てるという狙いがある。

■官民連携の基礎が土台に

 プロジェクトが成立した基礎が、町が取り組む官民連携プラットフォーム「よこらぼ」。町の強みを生かし人口減少に立ち向かうために、企業に対して実証試験の場として町を活用してもらうという制度だ。

 「よこらぼ」は2016年10月に開始し、1年後には22件が採択され、ベンチャーを含む多くの企業が参加した。地域創生にビジネスチャンスを見出す都会の企業が町を視察する体験ツアーや、災害用地図を制作するためにドローンを使った調査を行う事業を呼び込むことに成功している。町職員は、こうした事業の実現のため町内各方面への調整に走り回るなど全面的に協力した。町長の富田能成氏いわく「徹底して事業者寄りで制度設計した」ことが最大の特徴で、そのため民間の意思決定スピードに職員全員が合わせるように心がけているという。

 これによって、官民連携への住民の参加意識も高まった。こうしてできた、新たな取り組みに好意的であるという土壌が、町の強みだ。

■新しい価値を住民、出身者、クリエイターの交流から創る

 「よこらぼ」の採択件数が増え、町の知名度も上がってきたところ、新たに提案されたのが、今回のプロジェクト「横瀬クリエイティビティー・クラス」だった。提案のきっかけを作ったのは、町出身で多数のクリエイターを抱える企業SCHEMAの取締役、橋本健太郎氏だ。

プロジェクトの最初の起点となったクリエイティブソン(共創型の合宿イベント)。筆者がファシリテーターを務めた
プロジェクトの最初の起点となったクリエイティブソン(共創型の合宿イベント)。筆者がファシリテーターを務めた


 橋本氏は「この地域をどうにかしたい」という一心で、クリエイター仲間であるEXIT FILM代表の田村祥宏氏を町に呼ぼうと考えた。田村氏が経営するEXIT FILMは映像制作会社でありながら、様々な地域で複雑な社会の課題と向き合い、当事者とともに新しい価値を共創してきた。たとえば、川崎市のプロジェクトでは、市が打ち出した、外国人や障害者、高齢者などを受け入れるダイバーシティ(多様性)重視の政策をアピールするため、当事者が出演するコンセプトムービーの制作に取り組んだ。田村氏が横瀬町に関わることで、他の地域にはないような新しいチャレンジができるのではないか、と考えたという。

 すぐにまち経営課主査田端将伸氏も交えて構想を練った。そうして、住民と地域外のクリエイターが創造的な関係性を築きければ、自発的かつ持続的な地域づくりの実現につながるのではないか、という仮説が設定された。こうしてプロジェクトが立ち上がっていく。

■クリエイターが仲間を呼びたいと思える町づくり

 仮説設定の数か月後には、構想に関心を持った10社以上、計19名のクリエイターが集まった。そこから数カ月にわたり「クリエイティブ勉強会」と称して約30人の中学生を対象に授業を展開した。ミュージシャンが、曲作りや音楽による表現方法を教えたり、イラストレーターが絵を使ったコミュニケーションの手法などを伝授。半年後には、中学生が企画からシナリオ作り、監督、撮影、出演といった全ての行程に関わった映像作品の上映などの発表会が実施された。横瀬町のランドマークが登場する映像作品では、地元で生まれ育った中学生たちが"青春"をテーマに、いつかまた町に戻りたいと思えるような作品となることを目指した。

 数百人の住民が聴講する中、子供や孫の成長を目の当たりにしただけでなく、このようなプロジェクトを全員参加で成し遂げるこの町に、未来を感じた大人も多かったことだろう。

クリエイティブ勉強会。内容はそれぞれのクリエイター自らが考案し、本格かつ実践的なものとなった
クリエイティブ勉強会。内容はそれぞれのクリエイター自らが考案し、本格かつ実践的なものとなった


 現在は、地域内の様々な職種の人たちがキャリア授業を行うという取り組みも開始されている。これらが継続され、創造的な思想や能力を保有した住民が増えれば、外部の人材と出会い、より高いレベルでの創造的なつながりが生まれるだろう。

 このような「創造的な交流」は、他の地域においても新たな価値を生み出していく源泉となることを期待できる。そのためには、地域在住や出身のクリエイターが活躍できるステージを地域が積極的につくること、クリエイターが仲間を呼びたいと思えるような環境をつくっていくことから始めることが必要ではないだろうか。

横瀬クリエイティビティ―・クラス
https://creativity-class.xyz/


<富士通総研 内外経済トピックス>では、富士通総研の協力により、北海道と関係の深い中国や東南アジア、また国内経済の最新情勢について、研究員による分析や提言を随時掲載します。企業戦略やビジネス展開、就職活動などにお役立てください。

ささき・てつや 民間企業におけるビジネスモデルデザイン、イノベーション推進組織開発などを専門。昨今では地方自治体や公共団体なども含めたオープンイノベーションのプロデュースなどを手掛ける。主な著書に「0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方」(共著)。1980年神奈川県生まれ。
ささき・てつや 民間企業におけるビジネスモデルデザイン、イノベーション推進組織開発などを専門。昨今では地方自治体や公共団体なども含めたオープンイノベーションのプロデュースなどを手掛ける。主な著書に「0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方」(共著)。1980年神奈川県生まれ。

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