社説

激動を越えて 多国間主義の原点を再び

01/03 05:00

 韓国最北の鉄道駅、都羅山(トラサン)駅。700メートル先は、北朝鮮との休戦ラインを挟む非武装地帯である。

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 プラットホームには、高さ3メートル、幅1メートルほどのカラフルな壁を使ったモニュメントが立つ。東西ドイツ分断の象徴だった「ベルリンの壁」の一部だ。

 隣には秒単位で時を刻む電光掲示板が据えられている。起点は、日本の植民地支配から解放された1945年8月15日。朝鮮半島はその後、南北に分断された。

 刻々と積み上げられる「時間」は南北分断の長さを示す。ドイツにならって早期統一を、との願いが込められている。

 だが、北朝鮮は昨年、6度目の核実験を行い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の打ち上げも試みた。これに対して米国は軍事攻撃を辞さない構えを見せる。

 このまま一方的に緊張を高めるわけにはいかない。北朝鮮に核を放棄させ、朝鮮半島に平和をもたらすにはどうしたらいいか。今年は正念場だ。

■冷戦時より危険増す

 ベルリンの壁は89年11月、市民の手で崩された。ハンマーとのみで砕く人、次々と壁を乗り越える人…。解放感と喜びにあふれた。

 東欧諸国の民主化、2年後のソ連崩壊への序章でもあった。米国とソ連がにらみ合う冷戦が終わり、核戦争の危機も遠のいた。

 あれからほぼ30年。世界を駆け抜けた感動はすっかりさめ、再び核の恐怖がよみがえろうとしている。それは冷戦の構図を引きずる朝鮮半島だけの話ではない。

 「核兵器が使われる危険性は、冷戦が終わったときよりずっと大きくなっている。核武装国は増え、テロリストもいれば、サイバー戦争もある」

 ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のフィン事務局長は昨年12月の授賞式でこう警告した。

 5大核保有国である米ロ英仏中の核軍縮は停滞している。98年にはインド、パキスタンが核保有を宣言した。イスラエルも事実上の核保有国である。

 北朝鮮も、その一員に加わる恐れがある。

 フィン氏は「これまで核戦争を回避できたのは分別ある指導者のおかげではない。運が良かっただけだ」と強調する。

 「核には核を」と力の均衡を求める限り、核兵器はなくならず、脅威を払拭(ふっしょく)できないことを、世界は再認識すべきではないか。

■目立つ米の単独行動

 冷戦後の世界でもう一つ顕著になったのが、唯一の超大国となった米国の単独行動主義である。

 代表例が泥沼化したイラク戦争だ。今年で開戦から15年になる。

 国連憲章は自衛権の行使と安全保障理事会決議のある場合を除き、武力行使を認めていない。しかし、米国は多くの国の反対を押し切り、イラクに侵攻した。

 「核なき世界」を標榜(ひょうぼう)したオバマ前大統領に替わって、トランプ大統領が就任すると、身勝手な単独行動は一段と鮮明になった。

 他の大国にも同様の懸念を抱かざるを得ない。

 ロシアのプーチン大統領は2014年にウクライナの主権を踏みにじり、クリミアを編入した。プーチン氏は当時、核兵器使用の準備を軍に指示していたという。

 中国の習近平国家主席も南シナ海などで軍事的な動きを強める。

 中東から難民が押し寄せた欧州では排外的な右派勢力が台頭している。英国は移民制限を掲げ、欧州連合(EU)離脱を決めた。

 大国がエゴと野望をむき出しにすれば、国際秩序は乱れ、深刻な対立や争いを招きかねない。

 残念なのは、多くの国がこうした状況に危機感を抱きながらも、立て直す動きがないことだ。

■国連改革は不可欠だ

 世界は20世紀に大きな戦争を2度経験した。その反省に基づき、たどり着いた結論が国連の創設であり、多国間主義だったはずだ。

 いま一度、この歴史的な意義を思い起こしたい。

 北朝鮮問題でも国連はより重要な役割を果たせるはずだ。

 先に来日したグテレス事務総長は「紛争なしに平和的に解決することを望んでいる」と述べ、条件が整えば自身が訪朝する可能性にも言及した。

 一方で、国連の機能不全を訴える声も広がっている。

 シリア内戦ではロシアと中国がアサド政権に対する制裁決議に拒否権を繰り返した。米国は、イスラエルへの非難決議には基本的に拒否を押し通す。

 安保理の常任理事国(米ロ英仏中)が行使できる拒否権を、人道危機に関する決議では認めないなど、早急な改革が欠かせない。

 自国中心主義が蔓延(まんえん)する今こそ、多くの国に支持される多国間主義の仕組みが求められる。

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