犯罪被害に遭ったら…裁判参加、損害回復 弁護士が力に

09/30 17:00

 犯罪被害はだれの身にも降りかかる恐れがあります。被害者は、犯罪の内容によって身体面や精神面、経済面など、さまざまな害を被り、つらく苦しい思いをします。その損害を賠償させたり、またきちんと処罰してほしいなどの心情に応えたりする制度が設けられ、2次被害を防ぐための活動も進められています。今回は、弁護士が行っている犯罪被害者支援について、札幌弁護士会犯罪被害者支援委員会の佐藤茉有(まゆ)弁護士に聞きます。(聞き手・清水博之)




刑事裁判には、犯罪被害者が被告人や証人に直接質問できる「被害者参加制度」が設けられている




■刑事裁判に参加、発言も可能

――犯罪被害者にはどんな支援が必要ですか。


 命に関わるようなけがを負わされたら、身体的被害に加え、多額の医療費負担や、通院で仕事を休んだことによる収入減などの間接的な損害も生じます。精神的なケアにかかる費用もあり、こうした金銭的、経済的被害の回復が必要になります。また被害者は、一体何があったのか、なぜ自分が被害を受けたのかについて情報を求め、加害者をきちんと罰してほしいと望んでいます。加害者と二度と接触することがないよう求める人もいます。

――真実を明らかにし、罰を下すのは刑事裁判ですね。


 殺人や傷害など生命や身体に重大な侵害を与える犯罪の被害者のため、刑事裁判に被害者が直接参加できる制度があります。刑事訴訟法改正で2008年に導入された「被害者参加制度」です。それまでの被害者は、被告人を裁くための証拠として扱われ、被害者の心情は置いてきぼりでした。この制度によって被害者は刑事裁判で自らの心情を述べたり、被告人や証人に直接質問ができるようになりました。弁護士はこの手続きを手伝うほか、被害者の代理人として意見陳述や質問をすることもあります。被害者は一定の資力要件を満たせば、国選で被害者参加弁護士を選定してもらうことができます。

――被害者が法廷で発言する、しないで判決内容が変わるのですか。

 私が担当した裁判員裁判では、被害者が話すことによって事件のリアリティーが裁判員に、より伝わったと感じました。ダイレクトに量刑に影響したかどうかの判断は難しいですが、正しい処罰のための理解が深まったと思います。被害者の質問によって被告人の弁解の不合理さが明らかになったこともあります。参加制度を利用した被害者の多くは「できるだけのことはやった」と話します。




写真はイメージです Photo by iStock




■最良の手段を一緒に考える

――経済的な被害を賠償させるにはどうするのですか。


 大きく三つの選択肢があります。最初に考えるのは示談です。刑事裁判と平行して交渉を進め、加害者に賠償を約束させます。約束通りに支払わない場合に備えた「刑事和解」という制度もあります。示談の内容を刑事裁判記録の公判調書に記載してもらうことで、不払いがあった時にすぐに強制執行できます。

 二つ目は「損害賠償命令制度」です。刑事裁判の担当裁判官が損害賠償の審理も行う制度で、刑事裁判後、多くの場合は数カ月で決定が出ます。ただ当事者が異議を申し立てると民事訴訟に移行することになります。三つ目はその民事訴訟です。民事訴訟は多くの場合、第一審の段階で判決が出るまでに半年から、長いケースでは1年以上かかることもあります。かかる期間の短さや、刑事裁判の証拠をそのまま利用できるメリットがあるので、殺人など損害賠償命令制度の対象となる事件では、この制度の利用を勧めることが多いです。

 被害者に被害を賠償したという事実は、事件の起訴、不起訴の判断の際や刑事裁判で加害者にとって有利な事情となるため、賠償を受けるかどうか悩む被害者も多いです。とても難しい問題ですが、処罰感情の強さや経済的回復の必要性など、さまざまな事情を考慮して、いつ、どのような手段を取るのが良いかを一緒に考えさせていただくことは、被害者支援弁護士の重要な役割の一つです。


■費用の援助制度、無料電話相談も

――加害者と接触しない支援とは何をするのですか。

 接触の禁止を加害者に約束させます。会わない、メールを送らないなどの内容です。居場所などの情報を被害者の代理人に伝えさせるよう、約束させることもあります。ただこれらの約束は、ほごにした場合の直接的な強制力がないので、告訴する前の段階や、刑事裁判中の示談で約束させるなど、加害者側が応じる動機付けが必要です。

――被害者支援で弁護士を依頼する費用はどれくらいかかりますか。

 事件の内容や、どこまで弁護士に依頼するか、例えば示談交渉だけなのか、刑事も民事も依頼するのかといった事情によって大きく変わってきます。弁護士によっても異なるので、まずはお問い合わせをいただけたらと思います。

 弁護士費用については、依頼する方の財産の額によって制限もありますが、さまざまな援助制度があります。刑事裁判の被害者参加であれば、財産が一定額以下の方には国選制度を使います。示談交渉などについては日弁連の援助制度、民事事件については法テラスの弁護士費用の立て替え制度もあります。依頼内容によって利用できる援助制度が異なるので、こちらもご相談ください。

――相談は無料ですか。
 
 弁護士によります。札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会は毎週月曜の午前中と、水曜の夕方に、委員による無料の電話相談を行っています。委員会が連携している行政などの窓口もあります。











佐藤茉有弁護士




 <佐藤茉有(さとう・まゆ)弁護士> 札幌市生まれ。札幌東高、北大法学部、北大法科大学院を経て2011年に弁護士登録。15年から弁護士法人北空・札幌ヘッドオフィスに所属。2児の母。趣味は旅行で、コロナ禍前は長男と沖縄県の竹富島を訪れた。「コロナ後は金沢や伊勢神宮に行きたい」と話す。