首長や地方議員に不満…「リコール」ってどんな制度?

2021/08/27 17:00

 愛知県の大村秀章知事への解職請求運動を巡る署名偽造事件で、にわかに注目を集めた「リコール(解職請求)」という言葉。道内でも後志管内寿都町での高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査に関し、反対する町民から賛成する町議をリコールしようとする動きが出ました。そもそもどういう制度なのでしょう。札幌弁護士会の神保大地弁護士に聞きました。(聞き手 佐保田昭宏)




全道の有権者から選挙で選ばれた議員が一堂に会する道議会本会議場。住民は、議員が不適格であると分かった場合などにリコール制度を使って直接クビにすることが可能だ




■一定数の署名集め住民投票

――最近、リコールという言葉をよく耳にします。

 簡単にいえば、住民が住民投票で首長や地方議会議員を直接クビにできる制度です。地方自治法の第5章で定められている「住民が代表者を通すことなく直接請求できるよ」という項目の一つです。直接請求できるのは、条例の制定・改廃、監査請求、議会の解散、議会の議員の解職、首長の解職などがあります。

 日本には都道府県や市町村という地方公共団体があり、それぞれに首長がいます。北海道知事や札幌市長などです。それから道議や札幌市議などの議員もいます。これらの長や議員の職を失わせる要求がリコールです。

――具体的にはどのような手続きを取るのでしょうか。

 一定数の署名が集まると住民投票をすることが決まり、その住民投票で過半数が賛成すると、解職が認められます。住民からすれば、署名を集めるという作業と、住民投票をするという2段階の工程を経ることになります。

 例えば、札幌市中央区(有権者約20万人)選出の議員をクビにしたい場合、まず、同区在住の有権者の3分の1(約6万6千人以上)の署名を2カ月以内に集めると、区内で住民投票を行うことになります。この住民投票で過半数が賛成するとクビにできます。この署名集めは、誰でもできるわけではなく、受任者(署名収集者)という人だけが集められます。ただ、受任者には署名の資格のある有権者なら誰でもなれます。この受任者が多ければ多いほど、署名を集めやすいということになります。

――首長や議員をクビにできるというのは大きな権限ですね。

 リコール制度を含めた直接請求は、ひと言でいえば、民主主義を実現するための制度です。民主主義というのは、みんなで話し合って意思決定をし、みんながそれに従って動くという仕組みです。

 この民主主義の実現方法として大きく2種類があります。直接民主主義と間接民主主義です。直接民主主義というのは、その地域の住民が直接意思決定に関与する仕組みです。ところが、人数が多すぎると、みんなで話をするのが難しいので、直接民主主義を実践できません。そこでその地域の住民が代表者を選んで、その代表者が意思決定を行うという間接民主主義の形をとることになります。私たちが選挙で首長や議員を選んでいるのは間接民主主義の現れですね。

 ただ、常に首長や議会が、住民の意向に沿った対応をしてくれるわけではありません。例えば、首長や議員が公約に掲げた政策を進めてくれないとか、不適格であることが選挙後に分かったのに議員であり続けるような場合です。そうした場合に、首長や議員に対応を任せるのではなく、住民が直接決めることができるようにする、というのが直接請求です。

――直接請求は他にもあるのですか。

 国レベルでは三つしか採用されていません。憲法改正の国民投票(憲法96条)、最高裁の国民審査(憲法79条)、特別の住民投票(憲法95条)です。国レベルの意思決定については、できるだけ代表者に委ねるという考え方です。また、国会議員は地方議員と違って、選挙区の代表ではなく、全国民の代表となりますので(憲法43条)、選挙区の人の意向だけではクビにできません。ですので、国会議員にはリコールはないのです。これに対して、地方レベルでは、住民に身近な代表者や事柄についてはできるだけ住民の思いを反映させるという考え方に基づいており、リコールや条例改廃請求といった多くの直接請求の制度があるのです。

 基本は同じ間接民主主義ですが、直接民主主義の取り入れ度合いは地方と国でかなり違います。




愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)を巡る署名偽造事件で、リコール運動事務局が入っていた建物へ家宅捜索に入る愛知県警の捜査員=2021年3月




■署名偽造は刑事罰対象

――愛知県の大村知事のリコール運動を巡る署名偽造事件がニュースとなりました。何が問題だったのでしょう。

 解職請求は、住民の意向を反映させる制度として有効なように思えますが、多数決でいったん選ばれた代表者をクビにできるという反民主主義的な要素もあります。例えば、町民の意見が二分され、わずかに反対派が多いテーマがあったとします。議会も賛否同数で割れているとすると、反対派が賛成派の議員を減らすことを画策して、わずかに多い反対派の住民に呼びかけることで賛成派議員のリコールを実現することが可能となってしまいます。

 リコール署名は、反民主主義的な側面もあるものなので、厳格な要件が定められています。署名数や署名を集める期間が決まっているだけではありません。署名の方法も、氏名と住所を書けば済むものではなく、生年月日や押印を必要とします。

――悪意を持って制度を使う人がいれば、深刻な問題となりますね。

 地方自治法では、こうした直接請求の署名の重要性に鑑みて、署名を妨害したり、偽造することを厳しく罰しています。例えば、署名を偽造した場合、懲役3年以下または50万円以下の罰金です。

 愛知県知事のリコール事件について言うと、署名を偽造したということは、この地方自治法違反で刑事罰になります。また、個人情報をどこからか不正に入手したことにもなるので、個人情報保護の観点からも問題のある出来事でした。これが組織的に行われていたという点も大問題でした。数名がつい出来心でやっちゃった、というレベルではなく、わざわざ最低賃金の安い佐賀県まで行って多数のアルバイトを募集した上、口外禁止の誓約書まで作って偽造をしていたというかなり時間とお金のかかる組織的な犯行でした。

 民主主義を否定する大問題であり、組織的な不正行為であり、犯罪行為でもあるという大問題です。大掛かりな犯罪だったわりに、逮捕者が少ないのが不思議だと思いました。

――過去にリコールで解職された事例はありますか。

 例えば道内では1990年に、高レベル放射性廃棄物施設を宗谷管内幌延町に作ろうとした動きがあった際、隣の豊富町で、立地促進決議というのが出ました。これに地元の酪農家が強い不信感を抱いて、議会運営の責任者だった議長と議員の計2人をリコールした、という例があります。


■議会や議員の動き 日常的に監視を

――住民は、リコール制度をどのように活用すればよいですか。


 議会が住民の意向を反映していないと感じる場面は多々あると思います。典型的なものが、選挙時に争点にもしていなかった政策を進める場合です。その場合、住民の意向を反映させる方法として、請願署名や条例制定署名がありますが、これらは、議員にお願いするものであって、議員が否定的だとどうにもなりません。

 そこで、議員自身の考えに影響を与えるために、議員をリコールしたり、議会を解散させたりするということが考えられます。住民の意向を議員自身の進退と関連付けて考えてもらうという使い方です。また、議員が不祥事や不適切発言をしたけれど辞めてくれないという場合もあります。地方では、ほとんどの議員が与党系で相互批判をしにくいという実態があると聞いたことがあります。そうした場面では、住民によるリコールが有効だと考えます。とはいえ、先に述べたような反民主主義的な側面もあることに留意しなければいけません。

 重要なことは、日常不断に議会や議員の動きを監視し、おかしいことがあれば、リコールなどをしなくても議員が考えを改めてくれるように、日常的に私たちの意見を代表者へ伝えていくことだと思います。




神保大地弁護士


    
 <神保大地(じんぼ・だいち)弁護士>1983年(昭和58年)、江別市生まれ。札幌開成高から北大法学部に進み、北大法科大学院修了。2009年に弁護士登録(札幌弁護士会)し、札幌市内のさっぽろ法律事務所に在籍。妻と8歳の長男、5歳の長女の4人家族。今夏は毎朝、子供とラジオ体操で汗を流し「仕事中も心なしか体が軽い」と感じた。自宅庭の草むしりに励み、今年はブルーベリーの実を収穫した。