<訪問>「ラダックの星」を書いた 中村安希(なかむら・あき)さん

08/26 05:00

中村安希 守屋裕之撮影

亡き友と対話した25日間の旅

 何も言わずに友がこの世を去ったら、あとに残された者は気持ちをどう整理するのだろうか。

 著者は「巡礼の旅」を選んだ。それも「人生観を根底からひっくり返してしまうような星空に出合う」という目的だけを持って、2014年9月、北インドの秘境ラダックへ。

 本書は友人の死と向き合い続けた25日間をつづった。

 「亡くなった日も分からず、葬式もなかったし、友だちの死というものに対してどういうふうに区切りを付けたらいいのか。私にとってすごく難しい問題でした」

 友の名を仮にミヅキとした。ミヅキとは小学1年の時に同じクラスになった。その後、ミヅキは父親の仕事で米国へ転校したが、帰国後に再び同じ高校で学んだ。

 高校を卒業した後、2人とも故郷の三重県を離れた。ミヅキは東京外語大に進み、著者は舞台芸術を学ぶために米国へ渡った。ミヅキは夢をかなえて翻訳家になった。多忙な日々を送っていたが…。突然、彼女の死を知らされる。

 標高3500メートルの地、ラダックで星を見るために著者は一歩ずつ登る。ミヅキとの数々の思い出と彼女への問いかけが交互に積み重ねられていく。今回に限っては人との出会いを求めない旅だったはずなのに、途中で知り合った人に「去年の暮れに、友人を1人亡くしました」と打ち明け、自分でも驚く。

 09年、2年に及ぶユーラシア、アフリカの旅を記録した「インパラの朝」で第7回開高健ノンフィクション賞を受賞し、デビューした。これまで「Beフラット」「食べる。」「愛と憎しみの豚」「N女の研究」などの話題作を発表してきた。

 この間、香港大学大学院に留学してジャーナリズム論を学んだ。「ノンフィクション的な書き方とは何かということに悩んだ9年間でした。ただ今回は何度も書き直し、自分なりに納得できました」と話す。

 本書のテーマをあらためて聞くと、「今の日本社会が抱える現代病ともいえる、生きるしんどさかな」という答えが返ってきた。

 「私自身、30代を通して感じてきたことです。友人の死をきっかけに今後どう生きていこうかって考えました。こうしたら楽になる、生きていけますよというものはないんですよね。多くの人たちが生と死のボーダーラインで生きています」

 だから、友人に掛けられずに終わってしまった言葉を今も心で繰り返し、後悔する。

 「ミヅキ、一緒に逃げようよ」

編集委員 伴野昭人