<書評>蜂と蟻に刺されてみた

08/26 05:00

ジャスティン・O・シュミット著

昆虫の毒針 進化の意味を分析
評 小野有五(北大名誉教授)

 日本各地で昨年、南米のヒアリが発見され、大ニュースになった。「火蟻(ひあり)」という名前に恐怖をもった人も多いだろう。本書は、蜂とアリの生態やその毒に関する世界的な権威が、刺された時の痛さをランク付けするとともに、昆虫が刺すという行動の意味と毒について、これまでの研究成果をわかりやすく書いた、まさに「刺激的」な本である。

 著者は、研究のためとはいえ、ヒアリも含め地球上のほとんどの怖い蜂とアリに自ら刺されてみて、それをもとに刺された痛さを1から4の4段階に区分した。日本でいちばん怖がられているのはスズメバチだが、それさえ、痛さのランクではミツバチと同じ2だというから驚く。世界には、刺されたらもっと痛い蜂やアリがいるのだ。かなり痛いことがわかっていながら、あえて刺されてみるというのは常人にはできないことである。この「快挙」によって、著者は2015年、独創的で面白い研究に対して与えられるイグ・ノーベル賞を受賞した。

 自然のなかで伸び伸びと育った著者は昆虫少年だった。大学では化学を専攻し、博士課程になって初めて昆虫学を学び、得意の化学を生かしてその毒の成分を分析、そもそも人間はなぜ痛さを感じるのか、という生理医学的な研究までなしとげた。その生き方を見ると、幼時の野外体験が、受験勉強よりいかに重要かがわかる。蜂を追いかけ刺されながら成長するわが子を、見守りながら育てた両親もえらいと思う。

 人間は蜜を得たいために、旧石器時代から危険を冒してミツバチの巣を取ってきた。ミツバチは防衛するために毒針を進化させた。蜂もアリも、捕食者から巣を守るために毒をもって刺すという行動を進化させ、その結果、女王蜂や働き蜂など役割を分化させた。

 昆虫は高度な社会性を持つようになったが、人もまた毒針から身を守るために火を使い高度な文明を築いた。生き物はすべて、共に進化するのである。(今西康子訳/白揚社 2700円)

<略歴>
米アリゾナ大昆虫学科研究員、生物学者