<書評>自動運転「戦場」ルポ

08/26 05:00

冷泉彰彦著

実用化への課題 米国から探る
評 佐藤理史(名古屋大教授)

 「自動車の自動運転って、本当のところどうなの?」という疑問に答えてくれる本である。この本で取り上げられているのは、主にアメリカの現状であるが、一読すると、シリコンバレー組(IT企業)とデトロイト組(自動車メーカー)の違いから、アメリカの自動車社会が抱える問題まで、自動運転にまつわるいろいろな側面が見えてくる。

 自動運転に向かう段階は、レベル0(自動運転なし)からレベル5(完全自動運転化)までの6段階が設定されている。シリコンバレー組は「交通事故死をゼロに」という御旗の下、レベル5の実現を志向する。一方でデトロイト組は、より現実的な路線を志向する。

 レベル5の実現には、大きな技術的・社会的課題が立ちはだかる。現在の自動運転の中核技術は、高精細の3次元地図と各種車載センサーからの情報を利用した状況判断であるが、その判断の実体は、膨大なデータを利用して、人間の判断との誤差を縮めていく統計処理にすぎない。実際、自動運転の実験中に起こった事故は、現在の方式の問題点を浮き彫りにしている。

 もちろん、技術的課題は新たな技術で乗り越えられる可能性はある。たとえば、すべての歩行者が通信装置を所持すれば、自動運転システムは歩行者の存在と位置を比較的容易に検出できる。あるいは、道路や交差点といったインフラにセンサーを設置すれば、より多くの情報を利用することができる。しかし、それらの実現可能性は、ある種の不便さやインフラへの巨額投資を許容できるかといった社会的要因に依存する。

 そもそも、多くの人々は自動運転を望んでいるのかという点も忘れてはならない。確かに、ニーズはある。完全自動運転は「移動手段革命」とも呼ぶべき変革を起こす潜在力もある。しかし、そこに至るまでの人間の運転と自動運転が混在する過渡期を乗り越えられるのか。自動運転実用化への多くの課題を、本書は教えてくれる。(朝日新聞出版 853円)

<略歴>
れいぜい・あきひこ 1959年生まれ。米国在住のジャーナリスト、作家