<書評>新世界秩序

08/19 05:00

ジャック・アタリ著

国家超えた共同体で危機対処
評 中尾茂夫(国際経済学者)

 グローバリゼーションとは、1990年代以降の脱冷戦で旧社会主義陣営が市場経済化するなか、注目されるようになった語彙(ごい)である。それが今や、超格差社会を招来し、民主主義を瀕死(ひんし)の状態に追い遣(や)っている。多国籍企業による国境を超えた生産がポピュラーとなり、PCもスマートフォンも、ブランド商品も、生産の多くがアジア等の海外である。生産だけではなく、情報も労働力も、世界を股に掛けて激しく動く。

 こうした現状への対策として、トランプ米大統領は、国境を超えて脱出した多国籍企業の米国回帰を呼びかけ、米国労働者の雇用回復を目指す。トヨタを始め、多くの多国籍企業が、対米投資増でそれに応えた。かつて、市場のグローバル化は「国家の退場」だと称されたが、今や「国家の再登場」「国家の逆襲」の感すら漂う。

 本書は、そういった対処を真っ向から否定する。民主主義尊重の立場から、国家主権を一部譲渡してでも、国家を超えた共同体創設によって、人類の危機に対処しようというわけである。換言すれば、カオス化した危機的世界への対処として、国家に代わる世界規模の民主的権力で、いわば欧州連合(EU)の世界版を創出しようと目論(もくろ)む。

 EUといえば、ギリシャ危機に表れるユーロ圏のソヴリンリスク(公債危機)の顕在化や、英国のEU離脱等、負のイメージが強い。だが、著者は、民主主義と超国家性を軸とした「グローバル通貨システムの構築」を優先し、国際決済銀行による統一通貨の発行を説く。まさに、欧州中央銀行の世界版によって、次なるリーマンショックのような巨大な金融危機、マネーロンダリング(資金洗浄)のような金融犯罪の頻発に対処するシステムの構築である。「米国ファースト」のような自国最優先の風潮が強まる世界に抗(あらが)って、国家を超えて人類の生き残りを懸け、民主主義の蘇生に知恵を絞る著者の発想に、欧州を代表する知性の意気込みが伝わってくる。(山本規雄訳/作品社 2592円)

<略歴>
1943年生まれ。経済学者、思想家。サルコジ、オランドら歴代のフランス大統領のアドバイザーを務めた