九人の乙女

08/20 05:00

終戦記念日の8月15日はお盆のさなかだ。今年も帰省先などで祖先の霊とともに戦争の犠牲者を悼んだ人は少なくなかろう。ただ、戦争が「玉音放送」を合図にぴたりと止まったわけではないことも、記憶に刻んでおきたい▼1945年8月20日、樺太の真岡(ホルムスク)郵便局で、電話交換室の女性9人が青酸カリをあおって命を絶った。真岡にはこの日、当時のソ連軍が上陸していた▼ノンフィクション作家の川嶋康男さんが「永訣(えいけつ)の朝 樺太に散った九人の逓信乙女」(河出文庫)で、実相に迫っている。最初の1人は「まるで、風邪薬を飲み込むような仕草(しぐさ)」だったという。「飲まないのよ」といった声も飛び交ったが、極限状態の下、交換手たちは次々と死を選んだ。その場にいた12人のうち救出されたのは、わずか3人だった▼「大和撫子(なでしこ)は敵に陵辱されるぐらいなら、潔く死を選ぶ」との概念を植え付けられた若き乙女たちの心を、残酷に追い詰めてゆくのも戦争のむごたらしさである。川嶋さんはこう書き留めた▼稚内市の総合文化センターできょう「氷雪の門・九人の乙女の碑平和祈念祭」が営まれる。今年で56回目という。事件を風化させまいとの取り組みが続いていることに敬意を表したい▼「皆さん これが最後です さようなら さようなら」。未来ある若者から悲しいメッセージを聞くことが、再びあってはなるまい。2018・8・20