<第5部 地域金融の明日>1 融資、問われる「目利き力」

05/01 05:00

トンネル内壁をアーチ状の風船で覆い、耐久性を上げるのが東宏の特許技術。優れた技術が評価され、無担保融資が決まった(東宏提供)

 「担当者は通い詰めて、当社の技術を理解してくれた」。札幌の土木資材会社、東宏(とうこう)の小林雅彦社長は、1年半前に北洋銀行から無担保で受けた1億円の融資をこう振り返る。

 北洋銀は2016年、特許などの知的財産を評価して行う新たな融資制度の適用第1号候補として、同社に白羽の矢を立てた。コンクリートで固めた直後のトンネル内壁をアーチ状の風船で覆い、耐久性に優れた仕上がりにするなど多くの特許技術を持つ。

 本部の審査では「技術の価値を金額にするといくらなのか」「財務状況をもっと精査すべきだ」と慎重な判断を求める声が相次いだ。新たな評価手法で、しかも無担保で融資することへの戸惑いがあったことは想像に難くない。

 決め手は支店の担当行員の「東宏の技術を使う工事は入札の評点が上がり、トンネル工事の約50%で採用されている」という情報。一般的な融資の2倍となる約2カ月の審査を経て、融資は認められた。担当した融資第1部の細川雄太主任調査役(現当別支店長)は「銀行員は足で稼ぐという原点を再認識した」と話す。

■将来性評価

 道内金融機関は、バブル崩壊や1997年の北海道拓殖銀行(拓銀)破綻を経て不良債権処理を優先。融資についても担保や保証を前提に財務内容で判断し、「安全運転」に徹してきた。これに対し、東宏への融資は、経営者の能力や企業の技術力など数字に表しにくい要素を分析し、企業の将来性を重く見る「事業性評価」と呼ばれる。

 金融庁が14年に重視する姿勢を掲げ、15年の森信親長官就任以降、その流れはさらに強まり、16年度の金融行政方針では「日本型金融排除」との造語を掲げて、従来型融資からの脱却を金融機関に促した。新たな方式での融資を通じて企業の業績が伸びれば地域経済の活性化につながり、結果的には銀行経営にもプラスになる―。森長官はそんな青写真を描く。

 しかし、金融庁が昨年10月に全国の企業約3万社に行った調査では、約4割がメインバンクについて「担保・保証がないと貸してくれない」と回答した。事業性評価は、担保や保証に軸足を置いた融資に比べ、労力も時間もかかるのが実情だ。金融機関の現場からは「一朝一夕で身につくものではない」(札幌の銀行支店長)との嘆きも漏れる。

■研修で磨く

 「まだ突っ込みが足りない。お客さまをよく知り、何ができるか真剣に考える流れをつくっていきたい」。4月中旬、北海道銀行本店の一室。笹原晶博頭取が集まった15人の若手・中堅行員に声を掛けた。

 道銀は3月から、実際に各支店で行った事業性評価を基に、現場の担当者が役員らを交えて課題などを議論する研修を行っている。茂木哲義・事業性評価室長は「恋人に接するように、相手が何を考えているかを考え、最善の案を提供できる銀行員になって」と呼び掛ける。「目利き力」を養う取り組みは、北洋銀や道内の一部信金・信組でもすでに始まっている。

 元大手地銀幹部は、「行員の目利き力を養い、地域の企業を支援する融資姿勢は、金融庁の要請の有無にかかわらず必要だ」と力を込める。マイナス金利の長期化で経営環境が厳しさを増す中、各金融機関の力量が、これまで以上に問われる。


 拓銀破綻20年の連載第5部は、日銀のマイナス金利政策などで経営環境が悪化する中、奮闘する地域金融機関の取り組みに迫る。
(経済部 宇野一征、高橋俊樹、本庄彩芳が担当し5回連載します)