再活性化する地域通貨

01/05 14:24

地域通貨の事例

富士通総研主席研究員 米山 秀隆

 地域活性化を図るため、地域内にいかにしてマネーを呼び込み、またマネーを循環させていくか、が重要な課題となっている。その一つの手法として、1990年代終わりから2000年代初めにかけて、地域通貨がブームになったが、長続きはしなかった。

 しかし近年、消費を活性化させたい商店街と特定の政策目的を達成したい行政の取り組みが、ポイントの共通化を通じて結びついたり、地域通貨を介した助け合いが再評価されたりすることによって再活性化の兆しが現れている。

■福岡県柳川市の「やなぽ」 行政ポイントが相乗り

 福岡県柳川市では、2015年度から市内全域の商店で使える共通ポイントカード「やなぽ」が導入された。大型の郊外店舗やディスカウントストアの進出が進む中、地域の商店街が賑わいを取り戻す手段として3年間検討した結果、ポイントの共通化が図られることになった。100円の買い物で1ポイントが貯まり、400ポイントで500円の買い物ができる。現在、約270店舗が参加している。

 「やなぽ」には、行政ポイントが相乗りしている。イベントやまつり、各種講座、ボランティア活動、集団検診への参加などにポイントが付与される。さらには、市への転入に対しては「転入ポイント」、出生時には「出生者ポイント」もあり、2017年度のポイント付与対象事業は28種類に達する。

 このほか、70歳以上の高齢者に対しては、希望者のカードに高齢者シールが貼られ、カード所有者が来店すると1ポイント(1日1回限定)が貯まるという仕組みもある。この情報が事務局に集められ、一定期間来店がない場合、安否確認を行うという高齢者見守りの仕組みである。

 このように、「やなぽ」は単に地域の商店街の共通ポイントにとどまらず、行政が市民にして欲しい活動を行った場合にポイントを与えることで、活動のインセンティブを与え、地域づくりへの貢献を促す仕組みとなっている。

■岩手県盛岡市の「MORIO-J」 イオンのWAONに相乗り

 岩手県盛岡市では、2015年3月から商店街のポイントカードを共通化した「MORIO-J」が導入されている。肴町商店街の既存のポイントカード「JOYポイント」を発展させる形で導入された。

 100円の買い物で1ポイント貯まり、また、健康づくりや露天市など地域のイベントに参加することで行政からポイントを得ることができる。運転免許を自主返納した65歳以上の高齢者に対して、ポイントを付与する仕組みもある(500ポイント)。ポイントは1ポイント=1円で、加盟店で使用できる。現在約200店舗が参加している。将来的には、市役所や公共交通での支払いなどにも使えることを目指している。

 「MORIO-J」がユニークなのは、イオンの電子マネー「WAON」に相乗りしていることである。盛岡ではイオンのシェアが高く、市民にとって最も利便性の高い電子マネーがWAONであるという判断から、WAONに相乗りした。独自の電子マネーを搭載するよりは導入は容易で、すでにWAONをもっている人を加盟店に誘導する効果も期待できる。

■神奈川県相模原市藤野地区の「萬(よろづ)」 貸し借り文化の再興

 相模原市藤野地区では、地域通貨「萬(よろづ)」を介した助け合いが行われている。藤野地区は、戦時中は、藤田嗣治ら著名な芸術家が多く疎開していたことで知られ、1988年からアートによるまちおこしを行ってきた。今では全国から250人以上の芸術家が移り住み、良好な仕事の環境を求めるIT関連の人なども移住している。

 こうした移住者を中心とするコミュニティで使われている「萬」は、10年ほど前に移住者が立ち上げたものである。通帳型の地域通貨で、年会費1,000円を支払って会員になることで参加できる。自ら「できること」を登録し、その一覧を見て会員同士が直接やりとりをする。できることのリストには送迎、保育、掃除、刃物研ぎ、整体、留守中のペットの世話、手作りパンの販売、不用品の販売など様々なものが登録されている。

 依頼したい人は、リストを見て、値段も含め直接交渉で決める。そして手帳にやってもらった方はマイナスの金額、やってあげた方はプラスの金額を書き込み、互いにサインする。してほしいことを誰ができるかをメーリングリストで呼びかけることもある。1萬=1円だが、換金はできない。一部商店では、代金として支払うこともできる。

 地方では、近所での「貸し借り文化」が未だ残っているところもあるが、藤野地区ではそうした仕組みを、「萬」を通じて再興したと考えることができる。移住者は最初のうちは顔見知りがいないが、この仕組みに参加すれば、互いに必要なことをやりとりし、また、サインし合うことでコミュニケーションし、関係性を構築することができる。紙幣型やICカードではなく、通帳型でサインを必要とするという点は、コミュニケーションを促進するための助けとなっている。今では地元の人も含め、400人以上がこの仕組みに参加している。

■地域通貨の発展可能性

 このように地域通貨は、目的によって様々な形で導入されている。「やなぽ」や「MORIO-J」は、商店街のポイントが行政ポイントと一体化されており、ICカードはポイントという地域通貨を包括的に管理するコミュニティカードとして位置づけられつつある。

 一方「萬」は、移住者を中心とするコミュニティの助け合い、コミュニケーションツールとして機能しており、相互扶助型の地域通貨が、通帳という素朴な形で使われている興味深い事例である。コミュニケーション手段の一助とする場合は、むしろ素朴な形の方が望ましい。

 ここで紹介したのはほんの一例であるが、全国では様々な形で地域通貨を導入する試みが現れており(表)、今後の発展が期待される。





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