七光星に輝きを

地域の宝、見つめ直そう 「中標津モデル」から探る人口減時代の「豊かさ」

 整然と並んだカラマツが交差し、真っ白な根釧台地に雄大な碁盤の目を描いていた。北海道遺産「格子状防風林」。宇宙飛行士毛利衛さんがスペースシャトル「エンデバー」から撮影したことでも知られる樹林帯の先に、住宅が身を寄せ合うように並ぶ根室管内中標津町が見えた。

真っ白な根釧台地に巨大な碁盤の目を描く格子状防風林。奥には中標津町の市街地が広がる=13日(本社ヘリから、小室泰規撮影)

■20年間人口ほぼ変わらず

 人口約2万3千人。多くの道内市町村が少子高齢化や過疎化に苦悩する中、20年前とほぼ変わっていない。地域経済の研究者たちの間では最近、「中標津モデル」として注目を集めているという。地域衰退を防ぐカギがあるかを知りたくて今月中旬、現地を訪ねた。

 日曜日。まちの規模から想像できないほどにぎわっていた場所がある。町郊外の国道沿いにある地元資本の東武サウスヒルズ。都市部の大型店に引けを取らない規模の巨大商業施設には、家族連れがひっきりなしに出入りしていた。釧路、オホーツク両管内からの買い物客も多く、商圏人口は約8万人に上るという。郊外といっても中心部から車で数分。町役場や町立病院、家電量販店も同程度の所要時間でたどり着けた。

住みやすいまちの象徴的存在になっている中標津町の東武サウスヒルズ。休日には多くの客でにぎわう

■中心地でありベッドタウン

 「便利な施設がコンパクトにまとまっており、中標津に住んで町外で働く人も多い。周辺地域の中心地でありベッドタウン。そんな自治体はほとんどない」。中標津モデルの名付け親で国士舘大の加藤幸治教授(経済地理学)は10年ほど前に初めて調査に入った際、実感した。病院の後に買い物するなど「ついで利用」がしやすく、その選択肢も他のまちより多いという。

■研究者の注目、住民知らず

 だが、地元を歩くと、中標津町の居住環境の良さが注目されていることを知る住民はほとんどいなかった。家族で東武サウスヒルズを訪れた町内在住の会社員赤堀泰左さん(42)も「住みやすいとは思うけど、ちょっと大げさでは」。

 凝縮された都市機能が形成されたのは、北に中標津空港、南に広い農業試験場があるなど市街地が広がりにくかったという地理的要因が大きいとされる。東武サウスヒルズのような民間の大型店が結果的に郊外の商業集積を促した側面もあるようだ。

■一極集中にあらがうヒント

 それでも加藤教授は「中標津町の住みやすさは偶然によるところもあるが、逆に言えば価値をしっかり認識し、政策意図を働かせれば他地域でも大都市の一極集中にあらがえる」と指摘する。取材を終えて思った。地域を守る「宝」が足元にあることに、私たちはまだ気づいていないだけなのかもしれない、と。

■ケプロンは言った「最上級の地になる」

ホーレス・ケプロン

 「物産に富み、きちんと開拓すれば必ず世界でも最上級の地となる」。政府の招きで北海道開拓使顧問に就いた米国人ホーレス・ケプロンは帰国直前の1875年、滞在した約4年間の成果をまとめた報告書にこう記した。

 在任中は札幌農学校(現北大)やビール、缶詰など官営工場の設置を提案し、完成した建物には北海道開拓の象徴として赤い「五稜星」のマークが描かれた。開拓史に詳しい五稜郭タワー(函館)の木村朋希企画室長(57)は「開拓精神を後世に伝える意味もあったのでは」と推測する。

 ケプロン来日時に約11万人だった道内の人口は、終戦時の1945年に350万人を超え、一時的に東京を抜いて全国1位となった。だが、97年の569万人をピークに減少に転じ、45年には400万人にまで落ち込む見通し。今後も自然増加は難しい情勢だ。

■豊かさのカギは「多極」

 人口減少問題に詳しい京都大こころの未来研究センターの広井良典教授(公共政策学)は、拡大・成長のため無理を重ねてきた疲労や矛盾が臨界点に達していると指摘。「経済成長を絶対的な目標としなくても、『豊かさ』が実現する社会を目指すべきだ」と話す。

 では、どうすれば「豊かさ」を手に入れることができるのか。広井教授は「多極集中型のまちづくりが望ましい」とし、東京など大都市中心の発想から転換し各地域の価値に目を向けるべきだと強調する。

 地域の価値という点に着目すれば、道内にはまだまだ伸びしろがある。可住地面積は約2万2400平方㌔、食料自給率は206%といずれも全国トップ。水資源量にも恵まれ、1人当たり換算で全国平均の3倍に上る。風力や太陽光など再生可能エネルギー資源にも豊富にある。

■北海道の価値に気づいた酒造

 こうした潜在力に着眼し、地域に活力をもたらしている人たちは少なくない。岐阜県の酒造会社「三千桜酒造」は10月にも、上川管内東川町に会社を移し、道内初の公設民営酒造の運営に乗り出す。温暖化に伴う西日本産の酒米の品質低下に加え、夏場に発酵が進みやすい本州より醸造期間を確保できる気候の良さが移転の決め手になった。

 胆振管内豊浦町にある桜農園は道内初のオリーブの商業生産を本格化させる。札幌出身の木村佳晶代表(36)は、大学卒業後に広島県の会社に就職したが、15年にUターン就農した。「広大な大地と強いブランド力。新しいことを始めるのにふさわしいと思った」という。

■「課題解決先進地」へ

 ケプロンら開拓使に親しまれた五稜星は67年、北海道を代表するデザイナー故栗谷川健一氏の手によって「七光星」に生まれ変わり、道章や道旗に使われている。星のまたたきは5から7へ―。道民が足元の価値を見つめ直し、地域が輝きを増せば「課題先進地」とされるこの大地を、きっと「課題解決先進地」へと変えられる。(合津和之、本庄彩芳、金子俊介)

衰退歯止めのカギは「ついで利用」 国士舘大・加藤幸治教授

 地方衰退に歯止めをかけるにはどうすればいいのか。「中標津モデル」の提唱者で国士舘大の加藤幸治教授(経済地理学)に聞いた。(聞き手・金子俊介)

 ――地方の人口流出が加速しています。

 「雇用の有無だけでなく、買い物や医療などサービスの観点で考えることが大事です。同じ行程で複数の目的が果たせる『ついで利用』をしやすい都市の方が住みやすく感じるのは間違いありません。都市部では利用者が少ない専門的サービスも成り立ち、それが魅力となって人口集中が進みます。大都市一極集中は構造上避けられないのです」

 ――それを防ぐヒントが根室管内中標津町にあるのですか。

 「国道沿いにスーパーや病院など便利な施設がコンパクトにまとまっています。中心部からは空港も近い。さまざまな『ついで利用』が可能な選択の幅が確保されています」

 ――中標津町が特殊な事例なのでしょうか。

 「便利な施設がある程度まとまっているまちはほかにもあります。ただ、偶然によるところも大きいとはいえ、中標津町はある程度の集住もなされています」

 ――他の地域はどうすればいいですか。

 「住民がぎゅっとまとまって住む政策は必要です。また、サービスは貯蔵や輸送ができません。それを念頭に置いた上で、例えば、地元商業組合などがテナントの入った利便性の高い施設を国道沿いに建てるなど商業集積を考え直すことはできると思います」

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