共存できる?ヒグマと人



   日本では北海道にしか生息していないヒグマ。アイヌ民族にとってはカムイ(神)として崇拝の対象であり、開拓民にとっては畏怖の対象で、開墾を阻む存在だった。大正期には苫前村(現在の留萌管内苫前町)で住民7人がヒグマに惨殺された「三毛別ヒグマ事件」のような人食いグマの話も残る。一方、ヒグマは観光資源としての役割を果たし、人々は親しみの感情も抱いてきた。

 しかし近年、その関係に大きな変化が生じている。山奥で暮らしていると考えられてきたヒグマは人間の生活圏にたびたび侵入し、道内各地で目撃情報も相次ぐ。その原因は何なのか。そして私たちは、北海道でともに生活する「同居人」とどう向き合えばよいのか。



 


各地で目撃されるヒグマ

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札幌市内でも
数字で見るヒグマ被害


 ヒグマ出没の認知件数は増加傾向にある。2018年は1714件と近年で最も多かったが、2019年は8月までで既に1472件に達し、前年同期比152件の増。12月までに前年を上回る可能性がある。



 ヒグマの捕獲頭数は1990年ごろを境に上昇傾向にある。主に農地で、畑を荒らすなどの原因から、依頼を受けたハンターによる有害駆除(許可捕獲)が多くを占める。2017年には800頭を超えるヒグマが駆除された。



 農業被害額も増加傾向にあり、2017年度は2億円に迫る。専門家は増加しているエゾシカがヒグマの好む森の中の植物を食べてしまうこともヒグマを農地に誘因する原因の一つと指摘。「農地侵入に対する抜本的な対策はなく、被害額も駆除頭数も増えていく悪循環にある」と説明する。



なぜヒグマの出没が増えている?


保護政策へ転換 増加の要因

 酪農学園大の佐藤喜和教授(農学)は、ヒグマの出没増加について、1990年に道が春グマ駆除の廃止を決め、それまでの「積極的な駆除」から「保護」へと政策転換したことが要因と説明する。特に札幌市やその近郊での頭数増加が著しく、今後もヒグマが人の生活空間に入り込む状況は増えていくとし、生活空間に入り込んでしまったヒグマについては、駆除はやむを得ないと話す。ヒグマの侵入を防ぐ対策として、人とヒグマの住み分け(ゾーニング)を徹底することが重要と強調する。
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共存へ 私の提言


行政主導で対策を進めるべき

 北海道立総合研究機構環境科学研究センターの間野勉自然環境部長は、ヒグマへの理解を広げることや、野外に生ごみを置かないなどヒグマを人間の居住地に寄せ付けないためのルールの徹底は、個人の自助努力に任せるだけでは限界があると指摘。行政が予算を投じ、学校でヒグマの授業を行ったり、頑丈なごみ箱を設置したりするなどの対策を積極的に進めるべきだと主張する。また、駆除を猟友会に任せている現状に「猟友会メンバーは減少、高齢化しており、近いうちに対応できなくなる」と警鐘を鳴らす。
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農業被害対策へ社会的支援を

 北海道立総合研究機構環境科学研究センター道南地区野生生物室の釣賀一二三(つるが・ひふみ)室長は、増加し続けるヒグマの農業被害について、耕作放棄地の増加と農地の大規模集約化を背景に、ヒグマが農地に侵入しやすい状況にあることを理由に挙げる。対策として電気柵を広めるための社会的支援のほか、狩猟頭数を増やしてヒグマにプレッシャーを与えることも有効だとし、狩猟期間の延長や、捕獲したヒグマを資源として活用する仕組み作りを提案する。
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麻酔銃 不確実要素多く

 札幌市環境局環境都市推進部環境共生担当課長の金綱良至(かねつな・よししげ)さん(左)と、獣医師で札幌市円山動物園動物診療担当係長の植田薫さんは、8月に藤野地区の住宅街などに出没したヒグマを射殺、駆除したことについて、さっぽろヒグマ基本計画に基づき、「住民の安全を確保した上で確実に仕留められる方法を取った」と説明する。麻酔銃の使用はヒグマの動きを止められるかどうか不確実で、現実的に選択するのは難しいと語った。
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ヒグマを近付けさせない取り組み


 札幌市南区の石山地区などでは、住民らがヒグマを寄せ付けないための活動が行われている。ヒグマの通り道となりうる河川敷の草刈りを定期的に行うほか、山林に隣接した場所に花を植えて散歩道として整備し、いつも人が出歩く環境をつくっている。石山地区周辺の藤野地区や真駒内地区でヒグマ出没が相次ぐ中、石山地区ではほとんどヒグマの目撃情報が無いという。専門家は「人の気配がある場所にはヒグマは現れない。住民の活動は確実に効果をあげている」と話す。



草を刈り移動経路遮断

 石山大橋周辺の豊平川の河川敷で2014年から毎年、地域住民らによる草刈りが行われている。2013年にヒグマが出没し、酪農学園大から草刈りでヒグマの移動経路を遮断することを提案されたことがきっかけ。年々、参加者は増え、今では恒例行事に。作業終了後はヒグマの勉強会も行われている。



「人の気配」で侵入防ぐ

 石山の住宅街を流れる穴の川の両脇を、地域住民が「ハーブの小径(こみち)」と名付けて約750メートルにわたりさまざまな草花を植えて散歩道として整備している。かつては雑草が生い茂り、不法投棄されたごみもあって人が寄りつかなかったが、2005年から整備を開始。子供が遊べるパークゴルフ場も設置した。今では多い日で1日180人ほどが散歩している。常に人の気配があるためか、山林に隣接していながらもヒグマが目撃されたことはないという。



生態の理解 多くの人に

 札幌市内で出没が相次ぐヒグマへの理解を市民に深めてもらおうと、札幌市などは南区の自然体験施設「定山渓自然の村」付近の国有林で、ヒグマの痕跡を探すツアーを開いた。本年度は親子ツアーとあわせて3回実施。9月11日に行われたツアーは市民21人が参加し、ヒグマの爪痕がはっきりと見て取れる木を発見するなど、身近にヒグマが生息していることを確認した。
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