保護政策へ転換 増加の要因

酪農学園大学教授 佐藤 喜和 さん



―ヒグマ出没のニュースが相次いでいますが、実際に頭数は増えているのですか?

 全道的にヒグマの個体数は増加傾向にあります。札幌は特に顕著で、10年前と比べて予想以上に増えています。1990年を境にヒグマを取り巻く状況、ヒグマに対する政策が変わったことが要因です。90年以前はヒグマ根絶を目的とした道の「春グマ駆除制度」により、全道各地で春に冬眠から目覚めたヒグマを追いかけてわなや銃で駆除し続けていました。しかし、世界的な自然保護への意識の高まりを背景に、当時の横路知事が道議会で「本道の豊かな自然を象徴する野生動物」としてヒグマを保護していく大切さを訴え、ヒグマとの共存を目指す政策へとシフトしました。ヒグマは北海道開拓が始まってからずっと人と対峙(たいじ)する存在で、取り除かなければならないという基本概念から転換したわけです。積極的な駆除が無くなり、それから20~30年で頭数がじわじわと増えてきました。特に札幌ではヒグマの頭数が少なく、札幌市のレッドリストにも載ったほどでしたが、その分、増加が目立っています。

 春グマ駆除は、草木が雪に埋まってハンターが歩きやすく、見通しも良かったこと、さらに雪上にヒグマの足跡を見つけやすかったことで効率的にヒグマを捕獲できる方法でした。そのため、札幌を含む恵庭から積丹にかけての地域、天塩から増毛にかけての地域といった積雪が多い日本海側で効果を挙げた一方、雪の少ない渡島半島、道東、日高地方などでは、それほど大量に駆除されていたわけではありませんでした。そして全道一斉に春グマ駆除を禁止したことで、渡島半島、道東、日高地方でヒグマの数はさらに増えました。エゾシカが山でヒグマのエサにもなる植物を食べてしまうことが影響し、農地へと出没するヒグマも増えたと考えています。抜本的な農地への侵入防止策は無く、結果として道南、道東など農村地帯では農業被害が増え、春グマを駆除していたころ以上のヒグマが駆除されています。

―どれほどのヒグマがいるのですか?

 正確な数字は分かっていませんが、道の調査によると2012年には全道で1万600頭プラスマイナス6700頭。つまり3900頭から1万7300頭とされています。ヒグマが少ない間に、郊外への人の進出が増えました。札幌市では、西区や南区、中央区の山側まで住宅地となりました。中央区の伏見や円山、宮の森などは、以前はヒグマはおらず、危険を意識しないどころか、「緑が多い高級住宅地」として認識されてきた場所でしたが、今ではヒグマと隣り合わせの地域となりました。宮の森から盤渓は恒常的なヒグマの生息地と考えています。藻岩山にもたくさんいます。いつでも身近にヒグマが出る状況にあると考えるべきです。

 では、ヒグマの保護政策は間違いで、やはり根絶するべきだった-とするのはナンセンスです。札幌市には195万人が住み、登山者の数も膨大で目撃情報はたくさんあるけれども、人が襲われたという人的被害はほとんど聞きません。ヒグマの方も普段は、車の音などを聞いており、人がいることを意識して暮らしているため、人に近寄ったりはしません。ヒグマと人との関連性は転換期にあると考えます。札幌市民もすぐ近くにヒグマがいることを意識して共存していくしかないのです。


札幌市内でヒグマが出没、またはヒグマ出没の痕跡が見つかった場所を示した地図。山林が多い南区が中心だが、中央区や清田区などでも出没の情報が寄せられている(札幌市のホームページより)

―駆除は必要ですか?

 ヒグマへの対応は、市街地と農村地帯で分けて考える必要があります。北海道の多くの農村地域は、ヒグマ出没はイコール駆除の対象となるケースがほとんどで、淡々と駆除されています。農村地域はヒグマが出て当たり前で、畑の作物への被害や農作業をする上での不安、子供の安全の方が、生物多様性の保全の概念よりも優先される差し迫った問題であり、駆除の是非が問題になることはありません。

 一方、札幌市でのヒグマ対応は、農村地域とは異なる考え方に立たなくてはなりません。札幌市のまちづくり戦略ビジョンでは、豊かな自然環境があることが札幌の魅力と強みとしており、まちづくりの基本目標でも「豊かな自然と共生するまちにする」と定めています。 環境に優しいまちづくりを掲げ、市民もそれを受け入れている以上、極力、駆除はしないという方針はこれからも変わらないでしょう。かといって、真駒内公園のように多くの人が集まる場所に出没するような状況を受け入れなければならないかというと、それはノーだと思います。人の生活空間に入り込んでしまったクマについては駆除する必要があると考えます。

―「クマは被害者で駆除はかわいそう」という声もあります

 山沿いに住み、クマに直面している人と、遠くから山を眺めている人との感覚は異なります。やむを得ず駆除するしかない状況があるという観点に立ってほしいし、立たなければならないと思います。札幌市はヒグマとの共生を目指す「さっぽろヒグマ基本計画」を策定し、ヒグマの市街地への侵入を防ぐためにゾーニング(住み分け)の考え方を取り入れています。山林ではヒグマの健全な個体群を維持した上で、人の生活圏には入れないようにしようということ。それができればヒグマを殺さずに済みます。

 最近、毎年のように真駒内公園にヒグマが出没しています。すぐ近くに住宅街があり、山林との間には車の往来が激しい石山通りもあるのに、なぜ? と思うかもしれません。地図で見ると分かりますが、山林から真駒内公園へ川や緑地帯が何本もつながっており、これらはすべてヒグマの通り道になり得ます。真駒内公園にヒグマがたどり着いてしまうのは不思議なことではありません。それを未然防止するには、経路を遮断するしかありません。電気柵だけではなく、草刈りも効果があります。

 さらに、生ごみなどヒグマを誘い出すものを外に置かないことはもちろん、山沿いで高齢化による空き家が増えて人の気配が消えたり、果物などの木が残されたままの耕作放棄地が増えたりすることでもヒグマが人の生活圏へと進出してくる要因になります。適切な管理が必要です。ゾーニングの考え方を軸に、いかにヒグマをディフェンスするかの対策を講じなければなりません。


札幌市南区の真駒内公園周辺の地図。住宅地に囲まれてはいるが、ヒグマの通り道になりそうな緑地帯や川が複数あるのが分かる(佐藤教授の解説により作成)
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