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<デジタル発>アメリカの半分で「中絶」が違法に? 背景に「トランプの影」

 アメリカの連邦最高裁が、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた49年前の判決を覆しました。今後、中絶を禁止するかどうかは州に委ねられますが、半数程度の州が一定の制限をするようです。中には、レイプや近親相姦(そうかん)で妊娠した場合でも中絶を認めない州もあります。禁止された州の女性は中絶を希望する場合、ほかの州に行かなければなりません。最高裁に抗議する人―、判断を褒めたたえる人―。米国は真っ二つに割れています。いったいなぜ最高裁は判決を覆したのでしょうか。その背後にはトランプ前大統領の影も見えてきます。(ワシントン駐在 広田孝明)

■叫ぶ女性たち 議会前で

 「What do we want?(私たちがほしいものは?)」「Abortion rights!(中絶の権利だ!)」

 判決が覆された6月24日、最高裁前を訪れると大勢の人の声が響いていました。最高裁の判断に抗議する人たちです。

 「私は怒っているし、動揺しています。過去に戻ったような気がして悲しいんです。私の知っているすべての女性の将来を心配しています」

 「異議あり」と書かれたボードを手に訪れたバージニア州のケイティ・リーさん(33)は静かに怒っていました。

集会に参加したケイティ・リーさん(一番右)※写真を一部加工しています
集会に参加したケイティ・リーさん(一番右)※写真を一部加工しています


 首都ワシントンで心理学を学びながら働くコートニーさん(20)は「私はZ世代(1990年代から2010年代に生まれた世代)。過去50年間に起きたことをなかったことにするなんて、私たちが軽視されているように感じます」と訴えました。

■胎児の命か母の選択権か

 今回の最高裁の判断は1973年に中絶を女性の権利として初めて認定した「ロー対ウェード」判決を、「中絶の権利は憲法に明記されていない」として覆すものでした。

 そもそも「ロー対ウェード」裁判とは何なのでしょうか。

 当時、テキサス州法では、母体の危険がある時を除き、中絶は違法でした。テキサス州の妊婦ノーマ・マコービーさんは、この州法が違憲だとして「ジェーン・ロー」という仮名を使って、ヘンリー・ウェード地方検事を訴えたのです。結果、最高裁判事9人中7人が賛成して、中絶が権利として認定されたのです。

 その後、全米で中絶を禁止することはできなくなりましたが、この判決を覆そうとする訴訟は続きました。「プロライフ」(胎児の生命優先)か、「プロチョイス」(母体の選択権重視)か―。そして今回、とうとう判決が覆ったのです。

 最高裁前には判決が覆ったのを喜ぶ人たちも集まっていました。

 首都ワシントンに住み保守政治系組織で働くというトムさん(31)は「歴史の分かれ目に立っていることをうれしく思います」と話しました。

 抗議の声を上げる人をどう思うか尋ねると、「彼らが考えを変えてくれることを祈ると同時に、意見を述べる権利を尊重します。私は『命を守る』ことについて考えているだけです。今回の決定で何百万人もの(胎児の)命が救われます。これは現代の基本的な人権問題です」と訴えました。

■宗教的な考え方が背景に・・・

 トムさんは南部フロリダ州出身で、カトリック教徒でもあるそうです。

 実はアメリカで「中絶禁止」を訴える人が多いのは、キリスト教の信仰が関係しています。キリスト教のカトリックや福音派には「プロライフ」が多いのです。

 たとえばミシガン州の11人のカトリック司教は、最高裁が判決を覆したことを受けて、こんな声明を出しました。

 「ロー対ウェード判決を覆す今日の判決は喜ばしいが、命は創造主からの贈り物であり、政府や裁判官が与えたり奪ったりできるものではない。親になるか、養子縁組を選ぶかにかかわらず、すべての女性が必要な支援を受けられるよう努力を強めなければならない」

 司祭たちの声明には、中絶の権利を再び取り戻そうとする人たちへの動きに注意するよう呼びかける文言もありました。

 世論調査を見ると、中絶は必要との声が上回っているようです。

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