PR
PR

<デジタル発>地域防災、ホンネで話し合える場を <災害に備える・専門家の見方>③名古屋大・福和伸夫名誉教授

 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策について、避難施設や避難路の整備にかかる国の負担割合を引き上げる改正特別措置法が改正され、道内でも甚大な被害が予想される太平洋沿岸の各自治体で検討が本格化します。32万人を超える甚大な人的被害が想定される南海トラフ(東海沖から九州沖の太平洋海底)沿いの巨大地震では、同等の特措法が2013年に改正されており、道内より対策が先行しています。南海トラフ地震の防災対応を検討する政府のワーキンググループで主査を務めた名古屋大の福和伸夫名誉教授(65)に、道内でこれから取り組むべき課題について聞きました。(報道センター・川崎学)

■企業間で防災を議論する場が無い

 11年の東日本大震災では、三つの巨大地震が連動したことで、観測史上最大となるマグニチュード(M)9の超巨大地震が引き起こされました。私が住んでいる愛知県内では、震災前の10年頃から、南海トラフを震源とする東海地震、東南海地震、南海地震の三つの地震が連動して超巨大地震が引き起こされる危険性を前提とした十分な対策が必要だとの機運がありました。長年、地域防災に取り組んできた私は、県内の主要産業の自動車産業と、インフラを担う電力、ガス会社の防災担当者に声をかけて、個人的に南海トラフ地震対策について議論する場を持ちました。話してみると、県内の産業界には、防災について議論できるネットワークが無いことが分かってきました。そこで、それぞれの防災担当者が本音で話し合うことが必要だと思い、まずは飲み会を開きました。


 一杯飲んで口も軽くなり、ボソッと本音が出始めると、実際に巨大地震が起きた場合の問題点が明らかになってきました。例えば、電気が止まってしまうと、そう簡単には復旧しないが、電力会社以外でそんなことを知っている人はいないわけです。電気をつくる理屈、送る仕組みも知らないので、電力会社が「電気は大丈夫ですよ」と言ったら、それを信じるしかない。お互いに、ガスの作り方を知らない、車の作り方を知らない。そういった人たちがバラバラに人任せの社会をつくっているので、「これはまずいな」ということになりました。そこで、この3社に名古屋大学と愛知県、名古屋市を加え、発電所やガス、自動車の工場、県や市の防災拠点を順番に見学に行き、災害対応について勉強会を開きました。そんな時に、東日本大震災が起きました。中部地方でもショックは大きく、南海トラフ地震対策に不安を持った自動車産業から、工場の耐震性などの安全確認を頼まれました。一通り確認した後に、「建物の安全対策だけではなく、産業構造の問題点を考える必要もあるんじゃないか」と提案したところ、理解してくれました。そこで、14年に「ホンネの会」を始めることになりました。

■オフレコで話し合える「ホンネの会」

 互いに「電気を作るにはこういうものが必要だよね」「車を作るには」「ガスは」と話していると、例えば電気を作るには工業用水がいる、それから燃料と人も必要だと、だんだん分かってくるわけです。そうなると、燃料は海運関係者を呼んで聞く必要があるし、工業用水は県の担当者の話を聞かないと駄目だと。少しずつ各業界の人を呼んでヒアリングをしました。やればやるほど、本当の事を話すようになってくるんです。どうしてかと言うと、みんな「同じ船」に乗っている者同士だからなんです。名古屋は製造業のまちなので、住民が製造業の現場で働いていて、製造ができなくなれば、まちも住民も企業も、みんな駄目になることが分かる。だから、地域を守るために、お互いに自分の具合の悪いこともしゃべるようにしようという気持ちになり始めたわけです。話しやすくするために、参加する企業は1業種1社に絞り、競争相手は呼ばないようにしました。それから、話した内容を外に出さない「オフレコ(オフ・レコーディング)」にしました。そこで聞いたことは、議事録に残したり、外部に話さない。うそはつかない。話せない時は黙る。というルールを決めて進めたところ、防災対策の実情がだんだん分かってきました。

■オフレコからオンレコへ

 一方、「ホンネの会」の参加者だけが、防災上の課題を知っていては、対策がそれ以上進まないので、外の人とも話せないかと思いました。そこで、改めて中部経済連合会の中に南海トラフ地震対策の検討会をつくりました。これは、報告書をまとめる前提の会ですが、1度、ホンネの会で話しているので、参加した企業もある程度の内容を話してくれました。最終的に報告書を書くときに、具合が悪いことを削ればいいだけなので。そうして、18年に中部経済連合会の提言書にまとめました。今の産業が南海トラフ地震対策でどういう課題があるかをまとめたものです。「自ら変わらないといけない」ということを主体にした提言書です。

残り:2533文字 全文:4645文字
続きはログインするとお読みいただけます。

【関連記事】
<デジタル発 災害に備える・専門家の見方>
噴火警戒レベルに差 研究踏まえた観測体制が必要 ①北大地震火山研究観測センター・青山裕センター長
防災対策、「生き残る力」と「生き延びる力」が重要 ②北見工大地域と歩む防災研究センター・高橋清センター長

北海道のニュースがメールで届く
PR
ページの先頭へ戻る