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<デジタル発>道警ヤジ排除に「違法」判決 浮かんだのは「表現の自由」への配慮欠く姿勢
2019年7月、札幌市で参院選の街頭演説をしていた当時の安倍晋三首相にヤジを飛ばして道警の警察官に排除された男女が道に損害賠償を求めた訴訟は今年3月下旬、札幌地裁が排除行為を違法と認め、道に賠償を命じる原告勝訴の判決を下した。判決は、トラブルが起きる危険が切迫しており適切な職務の遂行だったとする道警の主張を退けた上、ヤジを公共的で政治的な表現行為と認め、その排除は表現の自由の侵害だと判断。道警側には「完敗だ」と衝撃が走り、道は判決を不服として札幌高裁に控訴した。ヤジ排除の妥当性を巡る法廷闘争は長期化の様相も見せる。一連の問題を振り返ると、市民の表現行為への配慮を欠いた道警の姿勢が浮かぶ。
「安倍辞めろ」「増税反対」。19年7月、札幌市中央区のJR札幌駅南口広場で行われていた安倍首相の街頭演説中に叫び声が飛んだ。声を上げたのは、ともに札幌市北区の団体職員、大杉雅栄さん(34)と桃井希生(きお)さん(26)。2人はすぐに警察官に肩や腕などをつかまれ、移動させられた。排除の根拠を聞いても納得のいく説明はなかった。
その後、大杉さんは札幌三越前で行われた首相の街頭演説でも同様に排除された。桃井さんは、JR札幌駅西口の周辺から大通公園近くに移動する約1時間にわたり、警察官に付きまとわれる形で行く手を阻まれ、別の演説会場に行けなかった。
これを受け、札幌の中心部では道警に抗議するデモが行われた。「ヤジも言えない世の中でいいのか」「法的根拠を示せ」などと訴える120人超の市民。道警本部庁舎前に到着したデモ隊は、代表が謝罪と説明を求める道警本部長宛の請願書を道警の担当者に渡した。
ヤジ排除から約5カ月後。19年12月に大杉さんは提訴に踏み切る。「おかしいと思ったことに声を上げ続けたい」。警察官に違法に排除されたとして、道に慰謝料など330万円の損害賠償を求めた。記者会見では「このまま何もしなければ『演説に異議を唱えたら違法行為なんだ』と言論の萎縮を招く」と強調した。
桃井さんも20年2月、警察官に違法に排除され、付きまとわれたことで人権を侵害されたとして、道に慰謝料など330万円の損害賠償を求めて提訴した。「偉い人は徹底的に守られ、市民は声を上げることすら許されないのか」。記者会見でこう話し、当然と思っていた自由は「簡単に奪われた」と振り返った。
併合して審理された二つの訴訟。争われたのは、警察官の行為が「適法」かどうかだった。
2人のヤジを排除した警察官の行為について、道警側が法的根拠としたのは警察官職務執行法(警職法)。同法は4条1項の「避難等の措置」と第5条の「犯罪の予防及び制止」で、人に危険が迫っていたり、人が犯罪を行おうとしていると明確に認められる場合に、避難させたり制止できると定めている。
審理では、原告2人と、排除に関わった警察官3人を含む7人の尋問も実施。一連の行為についての事実関係の主張や認識は原告、道警側の双方で大きな食い違いを見せた。
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