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あたたかき日光 第三章「ものまね夫と肩こり妻」2

 大きなクルミの木がある新婚の家で、綾子は慣れない家事にいそしんでいる。
「おいもさん、おいもさーん」

 二人で暮らし始めると、食べ物の好みが次第にわかってくる。光世は、里いもやさつまいもが好きで、おでんでも里いもが入っていると喜んだ。そんな夫の笑顔を思いながら、鍋の木のフタをまな板がわりに使い、いもを切っていく。

 食後、光世は必ず甘いものか果物を食べることもわかってきた。うっかり果物を切らすと、光世がオートバイを走らせて買いに出ることもあるので、綾子も十分気をつけるようにしている。

 果物の中でも、光世が好んだのはリンゴである。道東の山村、滝上村で過ごした少年期、周囲はリンゴ園であり、その思い出も重なっているらしい。

 皮をむくのはいつも光世だった。綾子が脊椎カリエスで臥(ね)ていたときも、光世は慣れた手付きでリンゴの皮をむいて食べさせてくれた。
「ミッコは、我が家のリンゴ担当大臣?」

 ある日、光世がこんな短歌を作った。

 

  リンゴ二つ妻の持ちくれば当然のごとく

  大きな方を吾(われ)が取る

 

 それを読んで、綾子はいたずらを思いついた。夕食後、大小二つのリンゴを並べ、あえて大きな方に手を出してみたのだ。
「こっち、いただくわね。当然のごとく大きな方を『妻が』取る、なんて」

 光世は不意を打たれ、押し黙ってしまった。眉間にはしわが寄っている。息を呑(の)み、何かを考えているようだ。
「……え、ミコさん?」

 今まで見たことのない光世の不機嫌そうな表情を、綾子は上目遣いに見る。

 すると、光世が低い声を発した。

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