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<中森明夫の銭湯的メッセージ>佐藤泰志の真実

 すごい本を読んだ。北海道が生んだ“伝説の作家”の評伝である。そう、佐藤泰志だ。函館市出身、芥川賞候補に5回ノミネートされるも落選、1990年に自死した。享年41。一度は忘れられたが、2010年に『海炭市叙景』が地元有志の企画で映画化されると様相が一変する。『そこのみにて光輝く』(14年)、『オーバー・フェンス』(16年)、『きみの鳥はうたえる』(18年)、『草の響き』(21年)と気鋭の監督たちが起用されて次々と映画化、数多くの賞に輝いた。続々と著作が復刊され、広く読まれている。

 中澤雄大著『狂伝 佐藤泰志―無垢(むく)と修羅』(中央公論新社)は超弩(ど)級の書物だ。原稿用紙1500枚、600ページ超のいわゆる“鈍器本”である。いや、その見かけだけではない。一読、ガツンと本当に鈍器で殴られたようなショックを受けた。早熟の才を認められた文学少年が進学で上京後、結婚して3人の子をもうけ、悪戦苦闘の果てに精神を病み、自死へと至るその生涯が実に詳細に明らかにされる。本書の取材は尋常ではない。10年以上を要したという。(不倫相手を含め)佐藤に触れた人間には全員に話を聞くというように、日本全国を飛び回る(38年前に佐藤がふいに採った街路樹の実の種類まで調べている!)。執念深い刑事のようだ。結果、新たな事実が次々と明らかになる。探偵小説を読むような趣だ。

 遺族の信頼を取りつけ、託された膨大な手紙が引用されて、そこから亡き作家の肉声が聞こえてくる。佐藤泰志を愛した人も、憎んだ人も、その才能に期待した人も、絶交した人も、家族も、何人かの不倫相手も、最後は殴り合いになった編集者も…。それぞれが重い口を開く。同世代の道内の作家・藤堂志津子の告白には、思わず息をのんだ。

 「狂伝」とは、よくぞ名付けた。文学の魔に見入られ、破滅的な生涯を送った男の“修羅”が書き尽くされている。その才能を認めた批評家・江藤淳の「文学は命がけですよ。少なくとも佐藤君にとって」という言葉が身に沁(し)みる。本書によって伝説の作家は丸裸にされた。しかし、その真の姿のなんと“無垢”であることだろう。そこのみにて光輝く。「そこ」を「文学」と読み替えたい。佐藤泰志が復活を遂げたのは、奇跡ではない。文学という恐ろしい力によるものだ、と思い知らされた。本書は大きな賞を取るだろう(取るべきだ)。映画化やドラマ化、ドキュメンタリー化もされそうだ(見たい)。今後の何らかを大きく変える―そんな本だ。若い人に読んでほしい。かつてこんな男がいた。北海道に生まれ、全力で書いて、生きて、逝った。必読!!(作家、アイドル評論家)

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