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<シリーズ評論・ウクライナ侵攻⑬>「スラブ民族統合」へ軍事介入 プーチン氏が生んだ敵対意識 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター共同研究員 藤森信吉氏


 <ふじもり・しんきち>1968年、東京都出身。慶応大法学研究科博士課程単位取得退学。在ウクライナ日本大使館専門調査員などを経て現職。北海学園大、札幌学院大の非常勤講師も務める。専門はウクライナ地域研究。53歳。

◇ ◆ ◇

■「ロシアに勝てる」95%

 ソ連崩壊後のウクライナでは、国民みんなが「自分たちはウクライナ人」と思っていたわけではなかった。「とりあえずソ連はだめ」という程度で独立に賛成する人が少なくなく、国内で経済危機が起きると、ロシアとくっつくべきだとの意見が多くなった。だが、こうした考え方は2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合で一気に変わった。

 ウクライナの世論調査機関「レイティング」が3月末に実施した調査によると、「ウクライナはロシアに勝てるか」という質問に「勝てる」と答えた人が95%だった一方、「負ける」はわずか4%だった。多数の国民が勝利を信じている。

 「勝利までどれくらいかかるか」では「数カ月」が31%、「半年から1年」が16%だった。いずれも、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで明らかになった市民の「虐殺」が反映された数字ではない。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟方針の支持も多数派だ。依然としてゼレンスキー大統領の支持率は高く、国民に厭戦(えんせん)感は広がっていない。

■世論維持 国内経済が重要

 経済状況はどうか。世界銀行によると、今年のウクライナの国内総生産(GDP)成長率は戦争の影響でマイナス45%になると予想される。ロシアの侵攻でビジネスの半分が機能しなくなり、黒海の封鎖によって輸出の半分が止まってしまうという。

 まだ年金や公務員の給料は支給されているようだが、経済の立て直しに向け、ウクライナは国際通貨基金(IMF)などに追加の資金支援を要請する方向だ。戦争によって経済が疲弊し、税収が大きく減少すれば、公務員や軍人に給料を払えなくなる。軍事侵攻の長期化が見込まれる中、今後もウクライナが国内世論を維持するためには国内の経済が重要なポイントになる。

■EU・NATO加盟方針 憲法に

 ウクライナはEUとNATOへの加盟方針を憲法に明記している。ロシアとの停戦交渉の行方がどうなるか分からないが、この方針を下ろすのは容易ではないだろう。憲法改正には議会の3分の2以上の賛成が必要で、非常にハードルが高いからだ。

 すでにウクライナ議会は、親ロシア派が存在できなくなっている。

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