PR
PR

<利尻 奮闘 島の本屋さん>上 買わずとも寄れる場所

 「今日は少し早いかな」。4月上旬、宗谷管内利尻町にある本庫屋(ほんこや)書店の佐藤悟さん(69)は、ブラインドの隙間から200メートルほど先のコンビニエンスストアを見つめ、つぶやいた。午前9時55分、上着を羽織ると配送トラックが止まったコンビニへ車で向かった。

 本庫屋は利尻町唯一の書店。注文した本は毎日、稚内からフェリーで届く。コンビニのコンテナには食品と一緒に、女性誌や児童雑誌8冊が詰められていた。佐藤さんは「稚内より1日遅れで店に並ぶけれど、楽しみに待っている人がいるからね」と目を細めた。

■会社辞め開業

 本庫屋は1994年、同じ場所にあった書店を譲り受けて開業した。佐藤さんは当時、利尻島内でバスの運転手をしていたが、店主が店を閉じると知り「本屋さんを残したい」と会社を退職。妻の春美さん(69)も小学校教諭を辞め、2人で店を切り盛りしてきた。

 出版取次大手の日本出版販売(東京)によると、活字離れなどから道内で書店がない自治体は61。同社は「離島で利尻島のように書店が生き残っているのは珍しい」と話す。利尻島には本庫屋のほか同管内利尻富士町に書店が1店ある。

 本庫屋の約70平方メートルの店内には漫画や小説、実用書など2万冊以上のほか、文具やゲームソフトが並ぶ。客は1日約50人。封筒1枚を買いに訪れる人、雑誌を毎週受け取る人、つららを見せに来る小学生もいる。

 「高校生のころからバスを待つ間に漫画を立ち読みさせてもらってね」。利尻富士町の介護福祉士入井由美子さん(41)は親子3代で通う。この日は子どものノートなどを買い、春美さんと世間話に花を咲かせた。

■観光にも一役

 経営は決して楽ではない。人気雑誌「週刊少年ジャンプ」の仕入れは開店時の半分以下に減り、暴風雪で本が入荷しないこともある。それでも元日以外は営業を続ける。佐藤さん夫妻は「買う物がなくても寄りたいと思う場所であり続ける。それが利尻にうちの店がある意味かな」と話す。

 地元観光にも一役買っている。「利尻の本屋に来てくれた思い出を形に」と2020年に全国の書店が参加する「御書印(ごしょいん)プロジェクト」に加わり、来店者にオリジナルはんこ「御書印」を押す取り組みを開始。印には、利尻島に上陸した米国人を描いた吉村昭の小説「海の祭礼」の一節を、春美さんが筆書きして添えている。全国300超の参加店がある中、札幌から日帰りで本庫屋に訪れる人もいる。

 夫妻の根底にあるのは「利尻に住む人、訪れる人を笑顔に」という思い。小さな書店の試みは今も続く。(稚内支局の菊池真理子が担当し、2回連載します)

【関連記事】
<利尻 奮闘 島の本屋さん>
下 キャラ考案、マチをPR

北海道のニュースがメールで届く
PR
ページの先頭へ戻る