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<シリーズ評論・ウクライナ侵攻⑧>弱る米国、描けぬ戦後秩序 インド太平洋、問われる日本の役割 慶応大総合政策学部教授 中山俊宏氏
<なかやま・としひろ>1967年、東京都出身。青山学院大国際政治経済学部卒、同大大学院国際政治経済学研究科博士課程修了。ニューヨーク日本政府国連代表部専門調査員や日本国際問題研究所主任研究員などを経て、2014年4月より現職。米国政治・外交、日米関係が専門。55歳。
■侵攻読み切った「インテリジェンス」
米国のインテリジェンス(情報活動)は今回のロシアのウクライナ侵攻に際して、かなり的確だ。米英だけは相当な情報共有をし、プーチン大統領の意図まで把握しているかのように、侵攻を警告していた。
ウクライナ国境に多数のロシア軍が集結したことについて、軍事的な合理性として侵攻するという推測は成り立つ。だが、多くの指導者や国は、これはプーチン氏のブラフであり、場合によってはクリミア半島や東部地方の支配を再強化していく動きに過ぎないだろうと見ていた。フランスやドイツ、ウクライナ国民、ゼレンスキー大統領もそうだった。
その状況証拠からみると、米国はプーチン政権のかなり奥深くから情報収集できていた可能性がある。通信傍受を相当駆使していることもうかがえる。米政府高官は「米国はプーチン氏の全ての会話を入手しているわけではない」とも述べているが、裏を返せば、相当程度入手しているということだ。
米国は、侵攻に確信を持っていたがゆえに、ロシアが侵攻する根拠となる情報を積極的に開示し、先制的に抑止する戦略をとった。従来にはない方法だ。情報の入手ルートを推測されるため、本来は外に出さない。侵攻を抑止できず戦略は失敗したのかもしれないが、ロシアの正当性を削ぎ、国際社会の「対ロ連合」形成には有効に作用した。
■「米兵は派兵しない」大統領明言
バイデン大統領は一貫して「米兵は派兵しない」と明言してきた。セオリーとしては、すべての選択肢がある状態にしておくことが望ましい。だが、侵攻を確信していたからこそ、侵攻を前提に対応しなければならなかった。介入の可能性をにおわせると、侵攻時に介入しなければ米国の信頼に関わる。介入しない方針と理由をきちんと明示することで、外交交渉に現実味を持たせた。
そもそも今の米国には、新しい大きな責任を引き受ける機運はない。
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