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<シリーズ評論・ウクライナ侵攻⑥>核リスク上昇、危うきシナリオ 測れぬプーチン氏の「合理性」 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長 戸崎洋史氏
<とさき・ひろふみ>1971年、鹿児島県出身。大阪大大学院国際公共政策研究科博士後期課程中退。博士(国際公共政策)。96年から日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター(現軍縮・科学技術センター)所属、2021年から現職。専門は核軍備管理・軍縮、抑止論。50歳
ウクライナに侵攻したロシアが核兵器を使用する可能性は、現状では高くはないが、排除できない。ウクライナの抵抗がロシアの想定より強く、目標の達成が難しい場合に、戦局を打開しようと、ウクライナに対する使用を検討するかもしれない。北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるウクライナへの軍事支援をやめさせるべく、少数の核兵器を示威的に使って譲歩を迫る「エスカレーション抑止」を試みる可能性もある。
さらに、厳しい経済制裁により、ロシアが核使用の条件としている「国家存立の危機」に追い込まれたと広く解釈し、核兵器を使う懸念も依然として拭えない。ロシアはウクライナが生物・化学兵器を開発していると主張しており、それを完全に無力化するとして、核兵器の使用を正当化することもあり得る。誤解や誤認といった意図せざる偶発的な使用も含め、核使用のリスクがある。
ウクライナ侵略の主軸は通常戦力であり、制圧後のウクライナ統治への影響や国際的な評判を考えると、ロシアが核兵器を実際に使用することは合理的とは思えない。だが、プーチン大統領が西側諸国の尺度では測れない「合理性」を持ち、核使用のハードルを低く設定している可能性はある。
■核のどう喝 地域紛争に
冷戦終結後、ロシアの通常戦力はNATOに後れを取っており、これを核兵器で補完すべく、欧州などに向けた2千発ともされる非戦略核兵器を一貫して維持してきた。また、ウクライナ侵略でも使われた短距離弾道ミサイルのイスカンデルや、極超音速ミサイルのキンジャールには、通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載が可能だ。こうしたことも核のリスクを高める一因となっている。
冷戦期には、米ソの核使用は世界を破滅させる全面核戦争を引き起こしかねず、これが両国の核兵器使用を強く抑制していた。核兵器は事実上、使えない兵器となっていた。それが現在は、地域レベルの紛争において、核のどう喝が、米国などの軍事介入をけん制する効果的な手段と捉えられている。その意味で、核兵器が実際に使われる可能性が高まりつつあると言える。
■ロシアの核戦略とも矛盾
核兵器の使用をちらつかせて威嚇するプーチン氏の姿勢は、ロシアの核戦略の基本原則とは異なる。
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