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<シリーズ評論・ウクライナ侵攻①>プーチン氏、真の狙いは「欧州安保再編」 笹川平和財団主任研究員・畔蒜泰助氏


 <あびる・たいすけ>1969年、東京都出身。早稲田大卒。モスクワ国立国際関係大学修士課程修了。国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員などを経て現職。専門はロシアの外交・安全保障政策、ユーラシア地政学。52歳

◇ ◆ ◇


 ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切った背景には、1991年の旧ソ連崩壊後、その継承国ロシアが最も弱かった時期に米国主導で構築された「欧州の安全保障秩序」を再編する狙いがある。ただ2月24日に始まった侵攻は、ウクライナ軍の激しい抵抗と欧米の厳しい経済制裁で行き詰まっており、ロシアの見立ての甘さと作戦のずさんさは明らかだ。新型コロナウイルス対策などでプーチン氏に直接意見できる側近が減り、正確な情報が入らない状態に陥っている懸念がある。

 プーチン氏にとって、ウクライナには二つの側面があった。一つは国境を接する隣国で、北大西洋条約機構(NATO)との緩衝地帯という安全保障問題としての側面。もう一つは昨年7月にプーチン氏が発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と題する論文で示された歴史問題としての側面だ。

 欧米各国は90年の東西ドイツ統合の過程で、ゴルバチョフ・ソ連大統領に「NATOは1インチも東方に拡大しない」と口頭で約束した。しかしNATOは拡大し、2008年の首脳会議でウクライナとジョージア(グルジア)の将来的な加盟を認めた。11年にはNATO軍のリビア空爆でカダフィ政権が崩壊し、さらに同年末にはロシア国内で反プーチンデモもあり、これ以降、プーチン氏は対米強硬路線を強めた。

 東欧のポーランドやルーマニアに配備された米国のミサイル攻撃システムは、ロシアにとっては喉元に突き付けられた大きな脅威だ。このためプーチン氏は、ウクライナの隣国の友好国ベラルーシへの核配備などによって「第2のキューバ危機」を演出し、米国を安保協議に引き込む戦略を描いていたはずだった。

 ロシアが14年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入して以降、米ロ関係は最悪の状態だったが、バイデン米大統領は昨年4月、ロシアとは「安定的で予測可能」な関係構築を目指すと表明した。ロシアがウクライナとの国境周辺に軍を集結させ始めた昨年10月末以降、米国は高官級の「戦略的安定対話」を今年1月に実施し、ロシア国境付近に配備した攻撃型兵器についてはロシアの懸念に配慮する姿勢もみせていた。

オンラインでの会議に臨むロシアのプーチン大統領=2022年3月10日(タス=共同)
オンラインでの会議に臨むロシアのプーチン大統領=2022年3月10日(タス=共同)


 プーチン氏は一定の目標を実現しており、多くのロシア専門家は、こうした流れを台無しにするウクライナ侵攻には否定的だった。プーチン氏はなぜ独立を承認した東部の親ロシア派地域のみならず、無謀と思えるウクライナへの全面侵攻を決断したのだろうか。

■コロナ禍で孤立に拍車か

 米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は3月8日の下院情報特別委員会で、プーチン氏について「取り巻きの輪がどんどん狭くなり、考え方が硬直している。頭はおかしくなっていないが、取り扱うのが非常に難しくなっている」と述べ、新型コロナウイルス対策の徹底で孤立に拍車がかかったと指摘した。

 プーチン氏は、ロシア帝国時代を念頭に置いた「ルースキー・ミール(ロシアの世界)」という世界観を持っている。

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